※日吉くん30代、女の子大学生の年の差

※理系男子日吉くん

※ただの捏造

※俺得小説

※広がれ、30代の輪









日吉先輩、そう呼ぶと、彼は眉間に皺を寄せてそこまでするほどじゃないだろうってくらいに目一杯嫌な顔をして「俺はお前の先輩じゃない」と言う。確かに、先輩でもなければ出身校だってまるで違う。おまけに年齢だって10以上離れていた。
先輩というよりは、どちらかと言えばお兄ちゃんのようだ。それを言ったら「間違っもお兄ちゃんなんて呼ぶな」と呼ぶ前から釘を刺された。しかも先程が目一杯だと思ったのに、それよりも更に嫌そうな顔をした。酷い。お兄ちゃんって呼ばれるのは男のロマンではないのか。妹萌えは万人受けというのはまやかしごとか。


「今日はお前の相手をしてやれる気力はない」


ミストグリーンのワイシャツのボタンを第2まで外してため息。どうやら日吉さんは凄い疲れているみたいだ。それもそうだ。今日までまる3日、研究室に篭りきりだったらしい。
いつもは艶やかな切り揃えられた髪の毛も、ところどころはねていて、疲れにキューティクルが負けたみたい。外見上、少しやつれたようで、どうせ熱心なこの人のことだから、ろくに食事を摂らなかったんだと思う。
黒渕の大きめの眼鏡の奥の目はしょぼしょぼして開いているんだか否か検討がつかない。

引きずったような足どりで、冷蔵庫まで向かうと、パイチャートみたいな形のチーズと缶ビールだけを取り出して、黒い皮張りのソファに身を沈めた。3日分の新聞が乗ったテーブルにそれらを置くと、手をつけもせずに背もたれに寄り掛かって天井を眺めていた。これは大分きている。


「…日吉さん、大丈夫?」

「…いや、全く」


ぐてんとしてしまった日吉さんに少々戸惑った。私はこんな日吉さんを見たことがない。今年で31歳となる日吉さんは、大学に通う私のことを子供扱いして笑うような人で。そして理系サッパリの私には分からないような難しい研究に日夜あけくれる人間だ。

私のバイト先の喫茶店の常連であり、ひょんなことからバイト外でも話すようになって私の熱烈なるラブコールを片っ端からシカトして受け流すような日吉さんが、弱っている姿に驚きを隠せない。だって、あの日吉さんが…!!

弱っているところが落とすチャンスだとテレビや雑誌で耳タコなくらい特集されているけど、こんなのいきなり巡ってきたってなにも出来やしない。
だって私は、最近試験期間で全く連絡を取れておらず、解放されてから久々に日吉さんに会おうとメールをしたら『死にそうだ』の一言メールで帰されて、慌てて日吉さんのマンションまで来たんだ。訳も分からずに。
私のほうが車で帰宅した日吉さんよりも先についてしまったので、エントランスから先へ入れず途方にくれていた私の前に現れた日吉さんは先程述べたような状態で。どうしたらいいか分からない。

なにか作ってあげたいけど、キッチンを勝手に使うのは憚れるし。かといって、他になにをしようか思いつかない。


「…おい、」


突然呼ばれて思わず跳ねた。
声の主を見遣ると、何かいいたげな視線を向けている。なんですか、なんて尋ねたら、無言でソファをポンポンと叩いてる。まさか、そこに座れということだろうか。まさかまさか。
でも、どうやらそのまさかのようで、一応近づいたら手を引かれて座らされた。大きなソファのはじっこに座る。


「あ、あの、日吉、さん?」


徐に眼鏡を外した日吉さんは、なんとそのまま横に倒れて私の太ももに頭部が着陸した。一瞬気を失って倒れたのかと思ったが、どうやら意識はあるようで、気がついたらこれは膝枕というやつだった。


「え、ちょ、あの、日吉さん」

「…なんだよ」

「え、いや、睨まないで!」

「何が言いたいんだよ」

「これって、その、あの」


何が言いたいのか自分でも分からない。つまりはパニックというわけだ。あたふたしていたら、今まで横向きだった日吉さんが仰向けになって、目があった。いつもは背が圧倒的に日吉さんのほうが高いので、なんとも不思議なアングルだ。喫茶店の店員の時とも角度が違う。
日吉さんがじっとみるから、恥ずかしくなって、でも顔も背けられないでいたら、ふ、と噴き出して日吉さんは笑った。


「ふ、はは、お前」
「な、ななななんですか」

「いや、なんでも」

「なんでもなくないですよね!」

「…お前には負けたよ」



何が、なんて聞く前に、日吉さんの手が伸びてきて、頬に触った。大きな手。同い年の男の子とは違う、大人の手。



「ひ、ひよし、さん」

「もう疲れて、眠くて仕方ないって時に、お前の馬鹿みたいな顔が浮かんだんだよ」



なんでだろうな、そう独り言のように呟いて、私の耳に髪をかけて、後ろあたりを撫でた。まるで猫扱いみたいだ。
その言葉が、人間としての私になのか、それとも猫扱いの延長なのか定かではない。でもちゃんと考えようにも、ゆっくりと私を撫でる手にドキドキしてなにもできない。


「…変な顔してる」

「、酷い」

「ふっ、これは根性負けだな」

「日吉さん、ちゃんと言葉で、言ってください」

「ああ、言ってなかったか」

「…言ってないです」


「…好きだよ、お前が」


手がストンと離れて、日吉さんはそのままうとうとと眠ってしまった。ずるい、こんな言い逃げみたいに寝ちゃうなんて。
しかも、こんなんじゃ起きたときにまた、疲れてたからとか眠かったからとかで「そんなこと言ったか」なんてはぐらかされてしまいそうじゃないか。大人はずるいから。

だから、彼が目を覚ましたときには、何か言う前に私から好きだって言ってやろう。太ももの上にある、普段と比べたら幾分か幼さの見える寝顔。つられて私も眠気に襲われる。そういえば、ここ最近きちんと眠れていなかったっけ。色素の薄い髪を撫でたら、彼の口許が少し緩んだことに、私は気づく由もないのだ。



マドロミ・シンパシー

20100816
とりあえず試しで書いてみた30代庭球っ子。
年の差カップル万歳\(^O^)/
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