アイスコーヒーよりも断然ホットコーヒーが飲みたくなるなぁと思う今日この頃。
無事に警察学校を卒業して、配属先も警備部機動隊爆発物処理班に決まったという萩原は、自由時間も増えて時間の調節もしやすくなったからと、以前より頻繁に環の店に足を運ぶようになっていた。


「でも萩原くん、お仕事大変じゃない?お家で休まなくて平気なの?」

「大丈夫。むしろ俺は、大好きな環ちゃんに癒されるためにここに来てるもん」

ここはコーヒーもランチもすごく美味しいし最高だね。なんてにこにこと嬉しそうに言う萩原に頬を染めた環は、洗い物をして少し冷たくなった手でこっそり熱くなった顔を冷やした。



萩原との強烈なファーストコンタクトから数ヶ月。はじめはこんなカッコいい人に一目惚れなんてされるわけがない…!と彼の好意を素直に受け取ることが出来なかった環も、店に来店するたびに真っ直ぐなアプローチをされて、幾度かのデートでとろけるような眼差しを向けられて、次第に萩原からの気持ちを素直に受け止められるようになっていた。
むしろ、今となってはとっくに萩原のことを好意的に見ているし、なんなら、先日のデートでちょっと目を離した隙に逆ナンされていた彼を見ていっちょ前にヤキモチなんて妬いてしまったし、だから、そろそろ、彼にちゃんとお返事をしなきゃいけない、と意気込んだ環は、そろそろお暇しますかねぇ…と名残惜しそうにコーヒーを飲み干した萩原におそるおそる声をかけた。


「あ、あの…萩原くん」

「ん?なぁに?」

「…今度のお休みは、いつですか?」

「え、なになに?もしかしてデートのお誘い?」

「………………そう、です」

「へ?」


萩原としては、めずらしく環から話題を振って来るものだから、嬉しくなって調子に乗って少し揶揄ったつもりだったのだけれど、うろりと視線を彷徨わせて真っ赤な顔で頷く環の様子に、冗談でも何でもなく環からのはじめてのデートのお誘いであると理解して、ぽかんと間抜けに口を開けたまま耳まで真っ赤になってしまった。


「その…た、たまには私から誘っても良いかなって……いやだった?」

「ぜ、全然!行こう!デート!!俺次は3日後が休みで…」

「あ、お店の定休日だ。じゃあその日、空けておいてもらって良いかな?」

「もちろん!じゃあ、11月7日ね」

「うん。時間はまた連絡するね?」

「わかった。楽しみだなぁ…」

「ふふ」


へにょんと赤いままの頬をゆるめた萩原に、環も同じようにゆるんだ頬を両手で隠した。






―――――――









けれど約束の日、急な出動要請に駆り出された萩原は、こんな日に爆弾を仕掛けた犯人を盛大に心の中で呪いながら、バタバタと支度をする傍らで環に謝罪の電話を入れていた。


「ホントごめん環ちゃん!せっかく誘ってくれたのに…!」

『だ、大丈夫だよ』

「この埋め合わせは今度必ずするから…!」

『あ、あのね!』

「ん?」

『…あの、萩原くんの迷惑にならなかったら、お仕事終わったあと、ちょっとだけでも会えませんか…?』

「え?」

『お、お話したいことがあったから…でも、無理にとはいわないし、』

「…わかった」

『え?』

「大急ぎで仕事終わらせてくるから、待っててね」


今日を逃せばせっかくの決心が鈍ってしまうかもしれないと、環は萩原の様子を窺いつつも食い下がった。おどおどしながらも環の声色に強い意志のようなものを感じた萩原は、思わず支度の手を止めて応える。その返事にほっと安堵した環は、気を付けてね。お仕事頑張ってと伝えて通話の切れたスマホを胸に抱きしめて、ざわざわと騒ぐ鼓動を落ち着けるように大きく深呼吸をした。








だけどその日、どれだけ待っても、萩原からの連絡が来ることはなかった。










【大変です!たった今、このマンションに仕掛けられていた爆弾が爆発しました!マンション内には解体作業を行っていた処理班が数名居たとのことですが、彼らは無事なのでしょうか!?】










悪夢ならば覚めてくれ








.
prevnext




- ナノ -