July




期末テストが来週に迫ってきた。
赤点取ったら夏合宿に参加出来ない…!なんて日向先輩と影山先輩が焦っていたけど、私は一応その危険はないので、のんびりと課題と復習を進めている。
だけど、油断は禁物。余裕ぶってて赤点なんて取ったらそれこそお母さんに怒られちゃうし、せっかくの東京合宿、参加出来ないなんて勿体無い…!というわけで試験勉強しようと意気込んで図書室に来たんだけど、みんな考えることは同じなのか、教科書やノートを広げる生徒たちで、席はほぼ埋まってしまっていた。

「(どうしよう…)」

「ん?あ、柚葉ちゃん?」

「あ、仁花先輩…!」

ちょっぴり大きい声が出てしまって、慌てて口を手で押さえた。幸いお勉強中の方々の邪魔にはなっていないみたいでほっと胸を撫で下ろして、苦笑してこちらに手を振る仁花先輩のところへ足音に注意しながら駆け寄った。

「お、お疲れ様です…!」

「お疲れ様。柚葉ちゃんも勉強しに来たの?」

「えっと、一応…そのつもりだったんですけど…」

小さな声であいさつをして、それから6人掛けの同じテーブルに居た先輩方にもぺこりと頭を下げる。なるほど、皆さんで試験対策……主に日向先輩と影山先輩のをしているようで、私も今日はしっかりお勉強するつもりだったのに…としょんぼりしてあたりを見回すと、室内の状況を見渡した仁花先輩がここにおいでよ、と一つ空いている席を示してくれた。

「え、でも、お邪魔じゃないですか…?」

「大丈夫だよ。それに須々木さんも、知らない人の隣より俺たちのところの方が気兼ねしないんじゃない?」

ね?と山口先輩が提案してくれるけど、正直先輩方5人の中にお邪魔するのもなかなか緊張するような…?いやでも、全然知らない人のところよりは確かに良いだろうし、他に良い場所も知らない私は、空いている月島先輩の隣にお邪魔した。







「(う〜ん…?)」

勉強をはじめてしばらく、数学の応用問題に取り掛かっていた私は、一つの問題に引っ掛かってちっとも先に進めないでいた。途中でプラスマイナスは間違ってないし、見直しても計算ミスはしていないし、でも、何度やってもちゃんとした答えがでてくれない。
どうしよう…ちょっと仁花先輩に聞いてみても良いかな…と思って顔を上げたけど、私の斜め前に座る仁花先輩は、両サイドの日向先輩と影山先輩のご指導で精一杯らしい。時折影山先輩のサポートに山口先輩が入っているけれど、これは質問したら確実にお邪魔になってしまう。諦めてもう少し参考書とにらめっこして、ダメだったら明日先生に聞きに行こうとページをめくっていると、横からすっとシャーペンが伸びてきて、問題の一部分を示した。

「ここ、」

「っえ?」

「これ引っかけ問題。見るべきはここじゃなくて、こっち」

「こっち…?…あ、もしかして、この公式を当て嵌めて…?」

「そう。…あとはできるんじゃない?」

月島先輩の助言に従って、さっきまでと違う公式を問題に当てはめて解いてみる。すると、あっという間に答えが出て、それがテキストの回答とおんなじ答えで、わ!ほんとに解けた!と嬉しくて顔を上げたら、頬杖を付きながらこちらを見ていた月島先輩とばっちり目が合って、びっくりしてひゅっと変な息の吸い方をしてしまった。

「えっと、あ、ありがとうございます…!」

「…どういたしまして」

ぺこりと私が頭を下げるところまで見届けた先輩は、また自分のノートに向き合ってカリカリと書き進めていく。よし、私ももうひと頑張り!と思って視線を前に戻したら、向かいの席でなんだかむくれた表情の日向先輩がじとっとこちらを見ていたので、どうしたんだろうと首を傾げた。

「…月島、なんか須々木さんには優しくね?」

「何度説明しても理解しないお馬鹿さんと同じ教え方するわけないでしょ」

「ぐぬぅ…!」

悔しそうに拳を握った日向先輩を、月島先輩が目を細めて見下ろしている。言い返そうとしても言葉が出ないということは、月島先輩の言うことは否定できないみたいで…日向先輩ってそんなにお勉強苦手なんだと、私はこっそり苦笑いした。







「あの、大変恐縮なのですが、こちらの問題も教えていただけますでしょうか…?」

「ん、良いよ。教えてあげる」

またしばらくして、今度は自分からわからない所を聞いてみたら、息をこぼすようにちょっぴり笑った先輩が、またシャーペンでテキストを示しながら教えてくれた。なんだかそれが月島先輩に特別扱いされてるみたいで、日向先輩には申し訳ないけれど、私はこっそり優越感に浸っていた。







(同じノートを覗き込む)
(ちょっぴりあつくて、あたたかいとなり)

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