愛しき日々よ






ぺらり、ぺらり、
ソファに凭れてゆっくりとアルバムをめくって、時折写真に写る人物を愛おしそうに見つめる黒尾の背後から、するりと細い腕が巻き付いた。アルバムを膝の上に置いた黒尾は、抱き付いてきた人物をくるりと振り返ると、アルバムを見ていた時のように目を細める。

「なぁに?一人でにやにやしちゃって」

「にやにや?してませんけど?」

緩みきった頬を隠しもしないで言い切る黒尾に、彼女はどの口が言うのかしら、とくすくす笑う。そのまま黒尾が見ていたアルバムを覗き込むと、わぁ…と感嘆の声をこぼした。

「懐かしい〜!みんな幼い!」

紺色のブレザーだったり、赤いユニフォームだったり、服装は様々だけれど全て高校時代の思い出がつまった卒業アルバムは、よく見てみれば灯の卒業年度のもので、それに気付いた灯はさっとアルバムを回収した。

「待って!?なんで私のやつ見てんの!?」

「片付けしてたらたまたま見つけちゃって?」

「うそ!私ちゃんと段ボールの奥にしまってたもん!」

「その段ボールからクリスマスツリー出してって言ったのは誰でしょーか?」

黒尾の指摘にはっとした灯は、したり顔で灯の頬をつつく黒尾を悔しそうに見る。そこからちょっと視線を逸らすと、リビングの窓際には小ぶりなツリーがちゃんと飾ってあって、お願いしたことをきっちりやりとげてからの犯行に、なんだか文句は言いづらかった。

「で?灯さんは荷解き終わった?」

「うん。あとは夏物の服とかだから、夏に片付ければ良いかなぁって」

くっと身体を伸ばしながら黒尾の隣にきた灯は、ぽすりとソファに沈んで脱力する。ふうと息を吐く灯にお疲れ様と声をかけた黒尾とともに窓の外を見ると、夕刻の少し暗くなった空にちらほらと雪が降りはじめていた。

「わぁ…初雪?」

「だな、どうりで冷えると思った」

「今年も冬が来ましたねぇ…」

寒いねぇ…と身を寄せる灯はそっと黒尾の手を取って、黒尾はその手を握り返して灯の肩に凭れかかる。無言で二人で寄り添っていると、部屋は時計の音と部屋を暖めるヒーターの音だけの静かな空間になって、うとうとと微睡みそうになりながら、灯は思い出したように呟いた。


「そういえば私たち、たくさんの冬を一緒に過ごしたけど、クリスマスデートは一度もしたことないのよね、」

「…そうねぇ…デート行きたい?」

「うーん…そりゃあ、行きたいけど…」

「……って、言うと思いまして?」

「……まして?」

「今日、イタリアンのディナーを予約した鉄朗クンってばすごくない?」

「えっ!?すごい!天才!大好き!!!」

「………なんか、大好きが安くないデスカ?」

きゃいきゃいはしゃぐ灯は、眠気なんて吹き飛ばして寝室へ駆けていく。あ!でも、早めに教えてくれた方がもっと嬉しかった!と日が沈んでいく窓の外と時計を見ながらバタバタとクローゼットをあさる灯は、さっそく両手に持つワンピースを見比べて悩んでいるから、黒尾はちょっとでも助け船を出そうと、右手に持つ膝丈のワンピースを指差して、俺はこっちのが好きと申告した。






この愛しき日々よ永遠に













(そういえば、さっきは結局何ににやけてたの?)
(ん?世界一かっこ良くて凛々しくて、自慢の嫁さんを貰えて幸せだなぁと思いまして?)
(あら、私だって、世界一可愛いくて気配りやさんで優しい旦那サマと結ばれて幸せよ?)
(……灯サン?毎度言うけど、俺のこと可愛いって言うのあなたくらいよ?)
(そう?私にとっては、昔からずーっと可愛いくて堪らない、愛しい人よ?)
(………え?昔って?いつから?)
(…ふふ、ひみつ)

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