晴れのち曇りのち…快晴を望む










秋も深まる今日この頃。私立梟谷学園では文化祭が行われる時期で、どこか学校全体にもそわそわとした空気が漂い始める。学校行事にやる気を出す者、お祭りごとが大好きな者、イベントに乗じて恋人をつくろうと画策する者。理由は様々だが、皆年に一度の催しを楽しみにしている。



「と言うわけで、ウチのクラスは焼きそば屋に決まりました〜」

学級委員の一言に、拍手と一部生徒の盛り上がる声が教室に響く。あれはやたらと張り切って出店の提案をしていたグループだなと目を向けながらぱちんぱちんと拍手をしていた木葉は、隣の席からちょいちょいと制服の袖を引っ張られて手を止める。

「楽しみだね!私焼きそば作るのめっちゃ得意だよ!」

ドヤ顔で元気よく親指を立てる凛も、お祭り大好きなグループの一員だったようで、そのキラキラと光る瞳を見て、木葉はふはっと吹き出して彼女の頭を撫でた。

……俺も、たった今すげー楽しみになったわ。





―――――――






「…………」

「……………」

「………………」

「………いや、落ち込みすぎじゃね?」

「………だって…」

教室の片隅でずぅぅぅん…と落ち込む凛の背中を、木葉はそっと撫でた。教室の前方には、わいわいはしゃぐ面々とその合間から見える黒板に書き出された当日の役割分担があって、凛の名前は材料調達班の下の方に書かれている。

「私も…焼きそば作りたかった…!」

「仕方ねぇじゃん、調理場に入れる人数限られてんだし、」

「くぅ…!」

悔しそうに拳を握った凛は、それをじっと見つめると人差し指と中指をぴょこんと立てる。なるほど、じゃんけんでグーを出して負けたらしい。

「まぁ、決まったもんは仕方ないから諦めろ。その代わり当日は店番しなくて済むんだし、学祭思いっきり楽しめるじゃん?」

な?とぽんぽんと頭を撫でても凛は顔をあげなくて、木葉はさてどうするかと思案する。
とりあえず焼きそば以外に興味を引こうと配られたプリントを手に取ると、各クラスの模擬店や展示物の一覧が並んでいて、木葉自身も少し心惹かれる。
お化け屋敷にプラネタリウム、巨大迷路…?なんかも面白そうだし、食べ物だと、から揚げとかフランクフルトとか、じゃがバターを出すクラスもあるらしい。
ほら、これも楽しそうだしこれはお前好きそうじゃね?なんて次々と提案する木葉は、不意にぎゅっと制服の袖を握られて言葉を止めた。

「あっきー、これ全部一緒に行こう…?」

「…は?」

「こんなの一人で回ったら余計にむなしいじゃん…!」

ねぇあっきー…!とぐすんと涙ぐんだまま上目に見つめられて、木葉はうっとたじろぐ。
彼女は、こうしてお願いをされると木葉が断れないことをわかって利用しているのではないかと、木葉は時々思ってしまう。
だが木葉も断る気はさらさらないため、渋々と言う態度をとりつつもそれを了承する。今回も返事をした途端にぱぁっと笑顔を浮かべた凛に、やれやれと苦笑をこぼした木葉はそわりと騒ぎ始める心を落ち着けた。


コイツに他意なんて無かったろ、いつも。
純粋に学祭が楽しみで、それを一緒に楽しんでくれる友達が居るから嬉しくて、それがたまたま、俺だっただけ。


…でも、せっかくなら、ちょっとくらい浮かれても良いだろうか。
隣でうきうきと身体をゆらす凛を見て、木葉はこっそり学祭デートのプランを考え始めた。






晴れのち曇りのち…快晴を望む







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