「ねぇ、まだ、俺のこと好き…?」



3月も半分以上の日付が過ぎ、今年最後の授業を終えた教室で、俺はそっと問いかけた。

運の悪い事に、今年も最後の日直に当たったらしい彼女は一人で日誌を書いていて、教室に顔を出した俺に困ったように苦笑を返した。…相方は自分の仕事だけ終わらせてさっさと帰ったらしい。


彼女の前の席に後ろ向きで腰掛け、背もたれに腕を置く。ペンを進める細い指先を見ながらぽつぽつと会話を交わすうちに彼女が日誌を閉じて顔をあげたので、その目をじっと見ながら聞いてみると、徐々に頬を赤く染めた彼女は目を逸らしてぽそりと言った。


「……好きに、決まってるやん…」

「…そう。」

「……なぁに?いい加減諦めろって言いたいん?」


不満そうに少し頬を膨らませる彼女にふっと笑みだけを返して、頬杖をついて窓の外に目を向けた。



「去年の今頃だったよね、急に告白されたの。」

「……せやなぁ。なんか急に、今言わんと後悔する!って思ったから」


ふふ、と笑みを浮かべた彼女を横目で見ると、俺と同じように窓の外を見ている。あの時と同じ景色、天気は晴れで、空には薄い雲が広がって、桜はまだ蕾ばかりだ。…あの時は景色なんて気にしてる余裕なかったけど、意外と覚えてるもんだな。




「俺、あれからずっと考えてたよ。」

俺は、彼女のことをどう思っているか。

隣に居ないと寂しいと感じるし、俺以外がそばにいるとムカつくし、遠くに行かないでよって思うし、俺より低い温度の手に、ずっと触れていたいって思う。


「これって、好きってことだと思うんだけど…どう思う?」


目を見開いた彼女が、ゆっくりとこちらを振り返ってはくりと口を開く。何か言いたげな口からは何も言葉が出てこなくて、かわりに潤み始めた瞳から、涙が一筋頬を流れた。


「え、ちょ、ちょっと待って?ごめん、頭混乱しとる、」


はらりはらりと落ちる涙に慌てる彼女は、両手でぐしぐしと目元を擦る。そんなに強く擦ったら腫れるよ。とその手を退けて頬をそっと撫でると、唇を噛み締めた彼女にきっと睨まれた。

……ごめん、意地悪しすぎたね。



「まだ、俺のこと好きなら、俺と付き合ってくれる?」


こくこくと頷く彼女の目からまたぶわりと涙があふれ出した。俺の手でも受け止めきれないそれに苦笑いしながら、彼女を引き寄せてこつりと額を合わせた俺は、一番伝えたかったことを、ゆっくり、大切に、言葉にした。






「好きだよ、咲良」


















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