黒尾



「…お、」
「…あ、」

赤いジャージに黒いTシャツ姿の黒尾と遭遇したのは、バイト先のファミレスを出て自宅方面へ歩き出してすぐだった。
ひらりと手を振る黒尾に部活帰り?と聞けばすぐにおうと返事が来て、そのまま帰る方向も同じだしと並んで歩きはじめる。
さりげなく前髪や服装が乱れてないかとチェックしていると、すっかり子供たちの居なくなった公園の前でちょいちょいとTシャツの袖口を引かれた。

「ちょっと付き合ってくんね?」

公園を示して言う黒尾に大人しく着いて行ってみれば、ベンチに置いたスポーツバッグをがさごそと漁った黒尾が白いビニール袋を取り出す。なんだなんだと見ていると、そこからカラフルな花火が出てきて、一緒にどう?とニヒルな笑みを浮かべた黒尾に少しドキドキしながら同意した。


監督の貰い物だったらしい小さな花火セットは、2人で消費しているとあっという間になくなってしまった。
最後の線香花火に火をつけてもらって、あぁ、この時間が終わってしまうのかと寂しく火花を見つめていると、黒尾がじっとこちらを見ていることに気付く。

「………なに、」
「……いや?別に?」
「……………」
「…………誕生日オメデト」
「…えっ、」

びっくりしてちょっと間抜けな声が出て、思わず黒尾をじっと見てしまう。
このタイミングで言う?とか、そもそも知ってたの?とか、なんでそんな照れたような顔してんのとか、言いたいことはいろいろあったけど、私の手元を見た黒尾が火花の落ちた線香花火を確認して、はいお前の負け〜っていつもの調子で言うから、先に抗議のセリフが出た。

「負けって、いつの間に勝負してたの」
「線香花火と言えば、先に落ちた方が負けっていうルールがお決まりデショ」
「何その黒尾ルール」
「ちょっとその目ヤメテ」

シラっとした目を向けていると、ふうと仕切り直すように息を吐いた黒尾が、またスポーツバッグをがさごそと漁る。

「負けた人は、罰としてこれを受け取ってくださ〜い」

その言葉と共に押し付けられたのは、赤いリボンでラッピングされた、どう見てもプレゼントにしか見えないもので、反射的に手に取ったあと呆然と黒尾を見上げると、徐々に頬を赤く染めてからふいと顔を背けるから、私にまでその赤みが移ってしまったじゃないか。

「…黒尾、プレゼントくらい素直に渡せないの」
「…うるせ、」

ぼそっと言い返す彼が、可愛くて愛しくてたまらないと思った。







お誕生日おめでとう



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