『月が綺麗ですね』

ちょっと小高いところにある烏野高校からは、何にも遮られずにぽっかりと空に浮かぶ満月が見える。競うように校門を出て行った日向と影山を、山口くんとやっちゃんが少し早歩きで追いかけて、それをのんびりと眺めていた視線をふと上にあげると見えた満月は、隣を歩く彼のように、私の心を惹き付けた。

「…急にロマンチックなこと言うね」
「…そう?だって、綺麗だなぁって思ったんだもん」
「ふーん…」

感嘆の言葉に乗せた想いは案の定届かなかくて、まぁ…でも、そんなに期待もしてなかったから、何でもなかったように月島くんに返事をする。空を見上げながらもゆっくりと歩いていた彼がしばらくしてふと立ち止まるから、私もつられて足を止めた。

「…月島くん…?」
「……ねぇ、」
「ん?」
「さっきの、無かったことにして良いの?」
「え?」
「…もしかしたら、今日は手が届くかもしれないよ」
「………え、」

振り向いて、月島くんと目が合っているはずなのに、月の光を背負う彼の表情は良く見えない。だけど、じっと私の言葉を待ってくれている気がしたから、私は震えそうな唇を無理矢理動かした。

「……私、……月島くんが好き、」
「……そこは夏目漱石じゃないんだ」
「…だって、手が届くかもしれないんでしょう?」

それなら、自分の言葉で伝えたい。
まっすぐに月島くんを見上げたら、ふっと彼が笑った気がして、それから一歩距離を詰めた。至近距離の月島くんにどきりと心臓が跳ねて、だけど、腕をぐっと引かれたから離れる事も出来なくて、慌てる私を追い詰めるように、彼が顔を覗き込む。

「ねぇ、………月が綺麗だね」

優しく目を細めて言う彼は、ほんとうにずるい人だと思った。








「手が届くでしょう」→「あなたと付き合う気でいます」
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