「ホンマに手伝いいらんの?」

「うん!」

満面の笑みで返事をして、いそいそと腕捲りをする彼女に、治はふっと苦笑をこぼした。



いつも美味しいご飯を作ってくれる治くんに、今日は私がご馳走します!

よく晴れた日の朝、いつものように彼女と2人分の朝食を用意しようとキッチンに立った治を引き留めて、彼女は声高らかに宣言した。
実の母に包丁使用禁止令を出されるほど料理音痴な彼女の提案に目を見開いた治は、どしたん!?熱あるん!?しんどくないか!!?と慌てて彼女の頬や額に触れて、私のことなんやと思っとるん…?としょんぼりしてしまった彼女を必死に慰めた。



とりあえず話を聞いてみると、今日は何やらおにぎりの日という情報を仕入れた彼女が、ネットで小学生でもできる…!というレシピを入手しキッチンに立つ決意をしたらしい。
包丁使わないし!大丈夫だよ!という説得にしぶしぶ頷いた治は、先ほどから聞き耳をたてながらそわそわしている。


「塩…少々?少々ってどんくらい?」

「小匙二分の一……えっ、どうやって半分にするん!?」

「あっつ、あつつ…!」

「………なるほど、ご飯はかき混ぜて少し冷ますんやな…」


………もうキッチンに向かっても良いだろうか。


彼女に座って待っててと告げられたため辛抱していたが、もうそろそろ心配で堪らなくなってきた。
頭を抱えていた治が席を立つと、それとほぼ同時に彼女がキッチンから顔を出した。


「治くん、運ぶの手伝ってもらってもええ?」

「……おん、」



テーブルに並ぶのは、白くて丸い塊がいくつも乗った大皿と、海苔やふりかけが盛られた小皿。

この白い球体を海苔やふりかけで好きに食べるシステムなのだと説明を受けて、治は白い球体を手にとると海苔で包んで口に運んだ。


「……ど、どう…?」

「……ふふ、」

おそるおそる尋ねる彼女に、思わず治の口から笑みがこぼれる。
おにぎりの出来としては、米は潰れているし塩の塊はあるし中身のしゃけは端に寄っているしで褒められる事は少ないのに、噛み締める度に幸福感がやってきて満たされていく。


「………うん、 めっちゃ美味いわ」

「ホンマに!?良かったぁ〜」


安心したように脱力した彼女もぱくりとおにぎりを食べて、途端に美味しくないやんか〜!!とベそをかくから、治は笑いながらそれを慰めた。



お前の愛情たっぷりのおにぎり、美味くないはずないやんか。







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