「だから、謝ったじゃない!」
「いやいやぁ誠意が感じられねぇんだよなぁ」

面倒な不良に絡まれた。
お気に入りの人形を抱いてスキップしていた年の離れた妹が、柄の悪い集団の先頭の男にぶつかった時は血の気が引いて、兎に角刺激しないように咄嗟に謝罪した。


でもそれが良くなかったみたいで、調子に乗ったこいつらは卑下た目で私を見下ろしながら取り囲む。
つ一か、謝罪するべきはあんたらでしょうが…!
奴らの足元で踏まれて綿が飛び出した人形を見て涙を流す妹を抱き締めながら奥歯を噛み締めていると、奴らの後ろから何やってんだと圧のある声が静かに響いた。


「ド、ドラケン君…!」
「お疲れ様です…!」

現れた男に、私は息を飲んだ。見上げる程の体躯に金の辮髪、しかも龍のような刺青までしたこの男は、間違いなくコイツらの親玉だ…!
どうしよう詰んだ…!?


ドラケンと呼ばれた男は、私と目が合うときょとんと瞬きし、次いで妹と男達、そして彼等の足元に目を向けると、盛大に眉間にシワを寄せた。


「おい」
「っはい!」
「お前の足元の、それは何だ」
「えっ、あそこのガキの…っ!」

ばきっと何かが砕けるような音がして、男は少し宙を舞って地面に沈んだ。
ったくよー…と気だるげにしゃがみこんだドラケンは、ぼろぼろの人形を拾い上げると適当に砂をはらって妹へ差し出す。


「ほら、悪かったな嬢ちゃん。あ、それともコイツらに弁償させるか?」


呆然と差し出された人形とドラケンを見比べていた妹は、おそるおそる人形を受け取ると首を横に振る。

「お、お姉ちゃんが、いつも、直してくれるから…」

「へぇ、…良い姉ちゃんだな」

わしっと妹の頭を撫でた彼は、そのまますくっと立ち上がって私と目を合わせると、何かを言いかけて口をつぐむ。
はぁと息を吐いて首裏をかくと、お前ら行くぞーと振り返り奴らを引き連れ去っていく。


「お兄ちゃ、ありがと…!」


泣いてひきつる喉でお礼を告げた妹の声に、ひらひらと手を振って応えた彼の姿が見えなくなるまで呆然と見送っていた私は、あぁ、私もお礼を言うべきだった…。と一人落ち込んだ。






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