「どっち!?蛍くんどっちが良い!?」

「どっちでも良いから、早く好きな方選んで」

「くぅ〜!悩ましい…!!」


つやつやきらきらと輝く、まるくて真っ赤ないちごをたっぷりと使ったショートケーキとミルフィーユ。ふたつを見比べてうんうん唸る彼女を頬杖ついて眺めていた月島は、「やっぱり蛍くんショートケーキ好きだから私がミルフィーユにするね!」と彼女が差し出す皿を受け取ってふっと笑みをこぼした。


今年のホワイトデーのお返しは何が良いかと訪ねてみると、いつもならなんでも嬉しいよ!となんとも困る返答をする彼女がおずおずと雑誌の1ページを開いてみせるものだから、月島はぱちくりとまばたきして彼女のリクエストを了承した。人気店の限定品だったため、ホワイトデー当日に入手することはできなかったが、目の前でにこにこといちごを頬張る彼女を見るに満足してくれたらしい。こっそりと安堵して自分のケーキを食べていた月島は、ややあって彼女がちらちらと自分の手元のケーキを見ていることに気付いた。


「……………」

「……………」

「…………食べる?」

「いいの!!?」


いちごとクリームとスポンジをバランスよく乗せたフォークを差し出すと、途端に彼女はぱあぁぁっと瞳を輝かせる。………やっぱりこっちも食べたかったらしい。きらきらとした表情でぱかっと雛鳥のように口を開けるのがかわいい…だなんて思ってしまって、でもなんだかそれが癪だった月島は、彼女に差し出したフォークをひょいと自分の口に運んだ。


「あー!!」

「なに」

「いじわる!くれるんじゃないの!?」

「だれもそんなこと言ってないけど」


しれっと言ってのけた月島を、彼女は小さな拳でぽかぽかと小突く。頬を膨らませてぷんすか怒る姿が予想通りすぎて、その反応にくすくす笑いながら今度こそ一口食べさせてやると、にんまりと満足そうに頬を緩ませるものだから、自身の恋人ながらちょろいな…と目を細めた。



「あ!」

「…なに」

「蛍くん、私のも一口どうぞ」

「結構デス」

「なんで!」

「自分で食べなよ」

「いいじゃん、遠慮しないで〜」

「…………」


ほらほら〜なんてケーキの乗ったフォークを差し出す彼女の瞳にありありと悪戯心を見つけた月島は、次の彼女の行動をすんなり予測しながらも、仕方ない乗ってやるかとそっと口を開けた。


「はーいあげな〜い!」

「……………………」

「……け、蛍くんが先に意地悪したんでしょ…!」

「………ソウダネ」


案の定、月島と同じようにひょいと自分でケーキを食べてしまった彼女にじとりとした目を向けていたら、
それに耐えられなくなったらしい彼女が気まずそうに目を逸らす。それを見てこっそり笑った月島は、ぐっと身を乗り出して彼女の細い顎を捕らえると、先ほどその口元についたカスタードクリームをぺろりと食べてやった。


「!!??」

「ん、ごちそうさま」


ぼふんと顔を真っ赤にした彼女に、月島は満足そうににやりと口角をあげた。







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