▼レサトとピピリの共通の生い立ち

 彼の両親、夜闇の魔女と星宵の魔術師は、魔女と魔術師の契約上の夫婦だ。
 しかし、星宵が真に愛しているのは別の女性ということを、夜闇は知ってしまう。
 心を失くしたはずの彼女は、強い憎しみと嫉妬に苛まれた。
 彼女は"星宵との間の子を身籠っている"と思いこみをするようになり、
 いつしかそれは魔女自身の呪いの力によって現実となり、彼女は大蠍の悪魔を産み落とす。

 大蠍の話を聞いた星宵は、夜闇のもとを訪れる。
 暴れまわる大蠍の狂おしい嫉妬を、星宵は"怒り"と"悲しみ"に分け、星の器に封じた。
 その怒りは真っ赤な髪をした男の子に。名はレサトと名付けられた。
 その悲しみは真っ青な髪をした女の子に。名はシャウラと名付けられた。

 二人は大蠍の悪魔としての心を封じられ、人の子として星宵の住む魔術師の館で育てられる。
 星宵と夜闇の間で穏やかな日々を過ごしたが、やがて悲劇が訪れる。
 "魔女は愛を知ってはいけない"という掟。愛を知った魔女は、みな等しく気が狂うという。
 星宵は夜闇と双子を引き離そうとしたが、夜闇は聞こうとしなかった。
 彼女の様子は日に日におかしくなり、ついに気が狂ってしまうそのとき、
 最愛の息子であるレサトに、「自分を殺せ」と願った。
 レサトはその願い通り、銀の鋏で彼女の喉を裂き、自らの母親を殺めた。

 レサトは強い精神的ショックを受け、その反動で悪魔の心が蘇ってしまう。
 人の子として育った彼と、悪魔としての彼と、一つの体に二つの心が同居することになった。
 星宵は、彼の人の心が、悪魔の心に食われてしまうことを危惧した。
 そして彼の人の心に、改めて名を与えようと思案し、古い仲である夢幻の魔女に、
 双子の人の子の心への名付けを依頼した。
 夢幻の魔女は、姉にレファ、弟にピピリと名付けた。どちらも彼らの悪魔の名と同じく、
 さそり座の毒針の星に由来する名前だった。
 これ以降、レサトとピピリは一つの体で、兄と弟のように同居することになる。

 しかし、二つの心がひとつの体に同居するのは、幼い彼の体にとって負担が大きく、
 ピピリは自分から、レサトの後ろに隠れるように身を潜めるようになった。
 これにより、レサトが自身の存在を封印する15歳までは、主人格はレサトに交代することになる。


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