わたしとウイングさんは恋人同士になってからけっこう経つ。
馴れ初めはというと、単純に酔っ払いに絡まれているところを助けてもらって、わたしが一目惚れ。
押して押して押しまくって、あの手この手泣き落としで、ついに陥落させたのだ。

自慢だけれどひとを見る目はあるほうだ。
思った通り、ウイングさんはお堅くてまじめで(落とすのに苦労したことといったら!)、
やさしくて紳士で、ちょっとそそっかしいところが愛らしい、いとしいひとだった。

でも、だが、しかし、だからじゃないけど、ちょっと自信がないところもある。
このひとは本当にわたしのことが好きなのだろうか、
やさしいひとだから、わたしを傷つけられないでいるのじゃないだろうか。

ウイングさんには弟子がいるらしく、修行だ何だと忙しくて、
夜だけ会える、とか、ごくたまに泊まっていく、とか、
わたしたちは「恋人同士になってからけっこう経つ」期間を、そういうペースで安定させていた。

つもりだった。

今日のウイングさんは午前中に弟子の試合があるとかで、夜に少しだけ会う予定だ。
暇を持て余したわたしは、二人で何度も来たお気に入りのレストランで少し遅いランチを食べていた。店のいちばん奥の、ちょっと個室みたいになってる席。そこがわたしたちの定位置で、店員さんも承知してくれてて、いつもそこに案内してくれていた。

ウイングさんは、身だしなみには無頓着だけど紳士なので、
いつもわたしを奥側の席に座らせてくれるし、わたしはそれがとてもうれしい。
ここからだと、店内が見渡せておもしろいし、
ウイングさんは壁を背に座っているわたしだけに集中してくれるのだ。

いつもの癖で店内を見回しながら食後のコーヒーを飲んでいると、店に一人のお客が入ってきた。
知った顔だ。
今まさに想っていた顔だ。
席を立って声をかけようとした矢先、彼の手に有名アクセサリーブランドのショッパーがあることに気づいた。ショッパーからは真っ赤な薔薇をベースにしたきれいなブーケが覗いている。
それを彼は店の女性店員に渡すと、二言三言話して気恥ずかしそうに頭に手をやった。店員も恥じらいながら頬を染めつつ笑顔を浮かべている。

わたしは席を立ちかけた間抜けな格好で、その光景を見ていた。
顔も間抜けだったに違いない。

そんなわたしには少しも気づかず、ウイングさんは店を去っていき、女性店員はブーケを大事そうにバックヤードへ持って入っていった。
わたしは彼女が戻ってくる前に大急ぎでお会計を済ませ、店を出た。
彼女にも、ウイングさんにも会いたくなかった。

やっぱりだ。ウイングさんはああいうかわいらしい控えめな女性が好みで、
わたしみたいに感情の激しい女と一緒にいると疲れちゃうんだ。
なによ、真っ赤な薔薇なんて、気障ったらしいったらありゃしない。
よりによってお気に入りの、思い出深いお店で、しかも自分の目の前で、
ほかの女にプロポーズするなんて。
ひどいじゃないか。あんまりだ。



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