傘の下で ・続
日傘の柄をしっとりと汗ばんだ大きな掌が攫っていく。
小さな傘に二人で入るには狭すぎて。
「銀さん…暑いわ」
肩が触れたまま歩くせいで熱が全身を高まらせていく。
「なに」
急に止まった足に、つられて見上げた。
「やっと意識した?」
遅えよ。男の言葉に冷や汗が伝う。
「もう、逃げ場なんてねェから」
ギラギラと照りつける日差しを思わせるような、男の瞳に吸い込まれてしまいそうで、妙は頭を振った。
「ま、待って…」
途端に立ちくらみを覚えて、平衡を失った体はすぐさま男に抱きとめられてしまう。近づいた距離、布越しに触れた男の温もりがひどく熱くて。
気づいたときには背にひんやりと冷たい塀が当たり思わず顔を上げると、傘を肩にかけた男がお天道様から隠すように囲い込む。それはまるで、小さな檻の中のように錯覚を覚えてしまって。
「ん……」
覆われた唇から熱を帯びていく。火傷のようにピリピリと肌を伝染していく。剥き出しの片腕に腰を引き寄せられると、僅かに離れた唇が角度を変えて、再び重なるとさらに深度は増していく。
誰が通ってもおかしくない、道の往来だと頭で理解していても、舌を絡め取られてしまえば思考は溶けて消えてしまって。
蝉の鳴く声も遠のいて、暑い、熱くて堪らないはずなのに、触れ合わせた唇の熱が堪らなく心地よく愛おしく感じてしまい、今はまだこのままで、男の檻の中にいたいと思ってしまった。
2017.07.23