キスに撃たれて眠る




 もうダメだった。誤魔化しきれない感情は、やがて言葉より先に体が動いていた。あどけない仕草に普段の凶暴さを隠して、否、どちらが本物だろうか。

 そんなことはもうどうでもいい。今はその柔らかな唇に早く触れたい。急かされた思いのまま、女の細い腕を引いた。俺の行動に驚いたのか、それともそんなつもりも無いとほんの少し拗ねた顔をして、まるで抵抗するように唇を尖らせていた。そんなもの抵抗でもなんでもなくて、三十路手前の野郎にとっては、最高の餌になることをまだこの小娘には分からないのだ。

むにゅ、と効果音を付けるとしたらそんな音だな、とまだ余裕のある思考回路で思う。言葉もなく合わさった唇に、もしかしたら齧られてしまうかもしれないと、構えてしまったけれどそんなことはなく、女の照れ隠しだと思い込んだ俺は、受け入れてくれたことに気を良くして、触れ合った唇の角度を変えてもっとと深くと求める。

 これで何度目のキスだとか、いつも触れる前は少し震えているだとか、余裕のある振りをしていても、そっと添えられた柔細い指先が、きゅっと俺の草臥れた服を握りしめられたことを感じ取った瞬間。もうダメだった。体は嘘をつけない。それは俺も、もちろん目の前の女も。
 後の祭りだ。キスは二人を繋ぐ、合言葉も必要もない。触れただけで伝わるだなんて臭い思考も、口内に潜り込ませた舌に全部、全部溶けて消えた。

 今日はいい夢が見れそうだ、と強く女の背を掻き抱いた。

 



5/23 キスの日SS 再録







2019.05.25





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