鍵は手の中に
「惚れてんだけど」
掠れた声が耳に届いた。鼓膜を通ったその声が言葉に変換されて脳に届く。拳一つ空けて隣に座り込んだ銀時から発せられたその言葉をようやく理解すると、まだ温みを残す洗濯物を畳んでいた手を、ピタリと止めた。
視線を感じて顔を上げると、ふいと逸らされて瞳が交わることはなかった。
「別に返事はいらねェから」
「はい?」
男が口にした意図を探りたいのに、空に投げた視線は妙を捉えることはなく。
「扉は開けとくからよ」
「銀さん?」
頭大丈夫かしらと小首を傾げて、銀時の顔を覗き込む。扉って。
「いつでも入ってきて構わねェからよ」
そう言うとニィ、と悪い笑みを浮かべて妙を見下ろす。顔の距離が近くて妙は思わず退く。
よっこら、と口にした銀時は立ち上がりそのまま屋敷を後にした。
残された妙は手元を映す。そこには男の着流しがあって、あっと口にする。
いつでもいいなんて。ズルイ。いつの間にか妙の心の中に居座っている癖に。
返事を聞くこともせずに帰った臆病な男に、いつ伝えてあげようかと洗濯物を畳みながら鼻歌を奏でた。
2018.11.04
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