特別授業



 下校を促す校内放送が響き渡る。銀八は気だるげに、愛用するスリッパの音を立てながら校内を廻り、居残る生徒たちに声をかける当番の日だった。

「おーい、てめェらさっさと帰れよォ」

 一言、二言交わしてようやく背を向けて帰る生徒たちを見送ると、根城と化した準備室へと踵を返した。ガラリと扉を開けた先、草臥れたソファに腰かける黒髪のポニーテイルが真っ先に目に入る。半袖の制服から伸びる白い二の腕がやけに眩しく見えた。気配に気付いたそれが翻ってこちらを向いた。

「…先生。私も生徒だから、帰らなきゃダメですか?」

 優等生である志村妙はその愛らしい瞳と、首を傾ける仕草に自分が弱いことを知ってか知らずか。徐にかけていた眼鏡を外して顔を近づける。吸い込まれそうな瞳に映る自分がまるで滑稽だった。

「お前は今から先生と特別授業だからいーの」

 言葉を発するより前に、吸い付くように柔らかな志村の唇を奪うと手にしていた眼鏡を書類が散乱する机に放る。その勢いのまま、二人してソファに沈む。古い冷房機が、部屋の温度を下げようと大袈裟に音が響き出す。

──やがて悲鳴を上げるように古いソファも鳴き始める、とある夏の夕暮れ刻。







銀妙SS垢 先行掲載




2018.10.17





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