ヘタレな雄の求婚



 筆を手にしてから数刻たっても、紙は白いままだった。

 きっかけなど忘れてしまったけれど、思い出した頃にこうして筆をとると、とりとめのない話を認めては、離れた街に暮らす相手に文を出していた。旅の合間に出すため、一方通行の文は、果たして女は読んでいるのか。家族でも、まして恋仲でもない相手─否、踏み込めなかった相手。

 さて、と腹を括る。

 勝手ばかりする男に愛想も尽きただろうか。文の最後はもう随分と前から決めている。女の顔を思い浮かべながら書き記す。

 帰ったら俺の苗字もらってくれ、と。






2018.スパコミ 無配SS




2018.05.05





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