「あなたのうさぎが三匹います」 「ここはどこですか?」 「あなたのうさぎはそれぞれに、食欲、性欲、睡眠欲を司っています」 わたしの最もな質問は敢えなくスルーされた。 確かわたしは、うっかりキッチンでバナナの皮にすっ転んだような気がする。 気づいたなら裁判所のような場所にいて、わたしは被告席に立たされている。 裁判官の背中に綺麗に収まっている白い羽根とキューティクルの延長のような頭の光輪は、考えたくない。 「あの、どうしてうさぎが……」 「静粛に!」 急に裁判官が叫んだ。 わたしの声よりよっぽど大きなものだったが、口にはしなかった。 びくっと萎縮した三匹のうさぎは、それでも、裁判官の前に律儀にちょこんと並んでいる。 「何故うさぎだと思いますか?」 「いやだから、わたしが聞いて……」 「何故だと思いますか?」 わたしの質問を聞く気はないようで、尚且つ、わたしが投げ掛けた質問はわたしが答えなければならないらしい。 「わかりました」 わたしは何もわからなかったが、裁判官は何かがわかったらしかった。 「このうさぎはあなたのうさぎです。人間の三大欲求は、この場所では裁く材料としてこうして具現化します」 「裁く?具現化?」 「そうです。最も特化した本能に近いものに具現化するのです」 そこまで言われて、にやりと笑った裁判官にぎくりと胸の奥が鳴った。 わたしはうっかりすっ転んだ。 この際、それがバナナの皮だったことはどうでもいい。 後頭部を強打したことは覚えている。 元いた場所はキッチンだが、そのキッチンの持ち主は所謂体だけの関係だった男だ。 ただ、そういった関係を持つ男は彼だけでなく、そのときはたまたま彼だった。 ここはどう見ても裁判所で、裁判官はどう考えてもあれにしか見えない。 目の前にちょこんと並ぶわたしのだという三匹のうさぎ、三大欲求の特化した本能の具現化、被告席に立たされたわたし。 「わかりましたか」 あの、と問い掛けようとして口をつぐんだ。 「食欲ならライオンで、睡眠欲ならナマケモノですか?」何ていう質問は、それこそ莫迦らしい。 「さあ、あなたの逝き先を決めましょう」 うさぎが三匹、わたしを見ていた。 ここがどこかより重要な決め手を握るうさぎが、三匹共に、にやりと笑った気がした。 is様参加作品 _20090731 u3 © 陽気なN |