妙な煙草を買った。
“夢見るライト”とパッケージにはあり、何と破格の百八十円。
このご時世にはありがたい、金欠の俺にもありがたい。
多少のネーミングセンスの無さは、値段で帳消しになる。


「ぎゃああああ!」
「大変だ大変だ!A地区にまた奴が現れた!」
「防衛軍は何をしてるんだ!?」

『あ?』


味には期待していなかったが、意外にもうまい煙草にしばし目を閉じていたなら──足元で騒ぎが聞こえた。


『……うっそー』


軽々しい言葉とは裏腹に、俺は今、心底驚いている。


「奴が喋ったぞ!」
「防衛軍はまだか!?」
『ちょ、何!?あっ、ちょっとお前、シャツの裾踏んでる踏んでる!』
「わあっ、カリヤさんが吹っ飛ばされたー」
『あ、ご、ごめん』


そんなつもりではなかったのだが、シャツの裾を踏みつけて逃げまどう奴をちょっと払ったら、どうやら彼はカリヤさんだったらしい。
「あーれー」とか言って、遠く吹っ飛ばされてしまった。
……悪いことをした。
いや、そうじゃない。
わけのわからない内に突如として目の前に現れたそこは、小さな小さな建物が延々並び、小さな小さな人々がてんやわんやと足元で大騒ぎしている場所だった。
縮尺模型のようなそこに、突如として現れたのは俺なのだろうか。


「防衛軍は!?」
「もうすぐ到着らしい!」
「俺んちが、俺んちがあー!」
「泣くなヤマモトさん!あの巨大なケツに潰されなかっただけマシだろうに!」
『……そんなにでかくないと思うけど……』


巨大なケツ発言に少しばかり反抗してみたなら、遠くから向かってくる数機の飛行機を視界に捉えた。


『え、まずっ、俺完璧悪者!?』


急に現実味を帯びたおかしな世界。
大袈裟に仰け反ったなら、ぐしゃがしゃーん!と、手をついた場所の小さな家々をまた潰したらしい。


「防衛軍だ!」
「防衛軍だ!」


わあわあと手を叩いて喜ぶ小さな人々。
明らかに今ので、より悪者となった俺。
近づいてくる玩具みたいな飛行機が、レーダー標準を俺に合わせた。


『まずっ……』


焦った言葉と共に、ぶわあっと吐き出された煙。
もくもくもくもく。
煙に包まれていく小さな世界。
煙に包まれていく俺の視界。

もくもくもくもく。





「……あっち!」


気づいたらベッドの上だった。
手の甲には、燃え尽きて落ちた煙草の灰。
きょろきょろと辺りを見回すも、小さな建物も小さな人々も小さな防衛軍飛行機も何もない。
ただ、吸い終わって火の消えた一本の煙草と、まだ十一本残った“夢見るライト”と銘打ってある百八十円の煙草。

これで百八十円。


「……安いのか高いのか」


取り敢えずはもう吸わないだろうから、やっぱり、高いのかもしれない。
そんなことを思った。


「とはいえ夢……だよな……あ、シャツに足跡が……」





初出_20090305
改稿_20111201

夢見るライトシガレット



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