いつの間にやら恋模様 カムアイ カム→アイ傾向 第一印象は、弱そう。 そう思ったから直接言ってしまったんだっけか。 思い出して血の気が引く。きっと、お兄さんからしたら俺の印象は最悪だったはずだ。 エミさんの件もあり、その後直ぐに切り替えて話し方を丁寧にしたものの、人はよく第一印象は大事だと言う。 なんてことをしてしまったんだ。 小学生葛木カムイは、先導アイチとの関係に深く悩んでいた。 エミに一目惚れをして、そしてアイチがエミの兄と知った後に手の平を返すように態度を一変させた、下心丸出しなカムイをアイチはどう思っているのか。 当時は出会って間もない頃だったとは言え、最悪な出だしにお調子者ときたところ、どう考えてもカムイには良い方向に転ぶなんて思えなかった。自分だったら表面すら繕える自信が無い。 それを考えるとやっぱりお兄さんは大人であり、そして優しい。 さすがエミさんのお兄さんだ、なんて頷いて、そして項垂れる。 カムイの中で、いつの間にかアイチの存在は予想以上に大きくなっていた。 当初の下心など途中から消え失せ、時として一人のヴァンガードファイターとして、そして一人の人間として果てしない尊敬の念を抱くようになったのだ。 だからこそ怖い。 ここまで人間関係に恐れを抱いたのは、初めてではないだろうか。 カムイは身震いした。 そしてそんな素敵な人に自分の我の強さを押し付けてしまったと思うといてもたってもいられない感覚に襲われた。 「うおおおおっ」 突然の叫びに、エイジとレイジは目を丸くした。 学校が終わって帰宅の途中、二人は大声を出し立ち止まったカムイに釣られ動きを止める。 「ど、どうしたんですかカムイさん!?」 「DKっすよ?!」 おどおどと慌てる二人などカムイの眼中に無く、一人葛藤し、そしていきなり走り出した。 「か、カムイさーん!?」 行き先は、カードキャピタルだ。 「こんにちは!」 息があがりながら着いたカードキャピタル。相変わらずカウンターには無愛想なミサキさんがいて、ポツリと挨拶を返してくれる。 奥からは店長が、どうしたの? と不思議な顔で出迎えてくれた。 「お兄さん、いますか?」 「ああ、アイチくんならそこに」 店長が指した方を見ると、ちょうど椅子に腰掛けるアイチの姿が目にはいる。 店長にお礼も言わず、急いで彼のもとへと駆け寄った。 「お兄さん!」 「あれ、カムイくん」 どうしたの? 息があがってるけど…。 なんて心配してくれた。相変わらずお兄さんは優しい。 カムイは感動のあまり涙が出そうになったがかろうじて堪え、早速本題に入った。 「お兄さん、今日俺とバトルしてください」 「うん、いいよ」 あっけらかんと返事をされ少々脱力してしまった。 しかし次の台詞を言おうと意気込めば、更なる緊張により体が石化していくのが如実にわかる。 「その、今日俺が勝ったら、お兄さんの本音を教えてもらえますか?」 「ええ、本音?えっと何の本音だろう?」 「それは俺が勝った時に言います!それですぐに答えてもらいます!」 「す、すぐに?そんな、出来るかな?」 「大丈夫です、簡単なことですし」 「まあ…ヴァンガードファイト出来るならいっか」 やった。これで勝てば、お兄さんから本音が聞ける。 …あれ、これでお兄さんが俺のこと嫌いだったらどうしよう。 「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」 勝負は始まってしまったから、後戻りなんて出来るはずがない。 仕方ない、もうこれは進むしかない! そしてカムイはアイチに勝利した。 「やっぱりカムイくん強いね」 にっこりと、だけど悔しそうにアイチはカムイに話し掛けた。 その目は優しげで、カムイはなんだかドキりとした。 「そういえば、本音が聞きたいって言ってたよね?」 「あ、その、」 緊張してきた。 いざ話すとなるとくすぐったい得体の知れぬ妙な感覚に襲われる。 ここから逃げ出したい思いと、だけど好奇心からなのか本音を聞きたい願望が入り交じり、カムイは混乱してきた。 中々切り出さないカムイにアイチは苦笑し、そして周りを見渡す。店はほどほどに賑わいを見せており、周りはちょうどいい、心地のよさを感じる人々の声が広がっていた。 「あ、の」 「何?」 カムイくんの友達、レイジくんとエイジくんが店内に入ってくるのが見えた。 「探しましたよカムイさ 」 「お兄さん俺のこと、どう思いますか?!」 「へ?」 「俺のこと、好きですか?」 「え、好きだよ?」 言ってから気づく。 カムイくんの声は前から大きいと思ってはいたけど、いつも以上に大きい声とその内容にあんなにざわめいていた辺りがしんと鎮まりかえっていた。 そして痛いほどの視線を浴びる。 最初は友情とか、そういうものだって勝手な先入観で答えてしまったけど、なんでだろう、なんでだろう、頭で理解出来なくなった言葉を何度も噛み砕き、…駄目だ、わからない。 「よ、よかったぁ…。やった!嬉しいです、お兄さん!」 「カムイくん」 「なんですか?」 「その、僕はそういう意味の好きじゃないんだ…」 「え」 カムイは思った。 そういう意味じゃないということは、それってつまり、お兄さんが俺のこと恋愛的な意味で好きだっていうことで…。 「あ、でもその距離を置きたくないよ!だってその、友達…だよね?僕達…。」 赤面しながら答えるアイチに、カムイまで赤くなる。 俺にはエミさんが居て、そして第一アイチお兄さんは男で、それでそれで、…。 カムイはとにかく混乱した。訳がわからない。まさか、お兄さんが俺にこんな感情を抱いていたなんて初耳だ。どうしよう、どうしよう。 だけど不思議と嫌な気はしなかった。寧ろ、アイチを無性に意識してしまう。 目の前にいる彼が可愛く見えて仕方ない。 彼の周りにふわりとした何かが見えた気がした。 きらきらしていて、言うなればRPGの、体にオーラを纏わせる魔法のような、美しいと言える幻想的な雰囲気のお兄さんが目の前にいた。 途端、動悸が聞こえてきた。凄くうるさく響くそれはまるで恋をしてるかのようで。違う、実際にしてしまった。 今ここで、アイチという一人の人間に恋をしてしまったのだ。いや、今ここででは無いのかもしれない。 容姿もさながら、彼の人間性にもいつの間にか惹かれていたのだ。 「か、カムイさんこれはどういうことですか…?」 レイジとエイジが混乱しながら話し掛けてきた。 俺も混乱してると答えたら、お兄さんも混乱しているらしく、整理してもいいかなと目を細め頬を染めながら言葉を紡ぐ。 そんな姿に見とれながらアイチの説明を聞いたカムイはまさかの誤解に気づき、今回の話は友情だという結論に落ち着いた。 だがアイチに恋をするというカムイの難儀な試練は始まったばかりである。 |