それは幸せな夢 (ヒロ円(ヒロ+円?)) 何段あるのだろう。 昇っても昇っても終わりの見えない苔の生え薄汚れた階段を睨み付けながら、ヒロトは足を止めてから疲労の漂う溜め息を思わず吐いた。 少し上段にいた円堂が振り向き、小首を傾げる。 その視線を受けたヒロトは少しばかり困った顔を円堂に向けた。 苦笑気味のヒロトに少なからず違和感を感じた円堂は、躊躇うことなくずかずかとヒロトの元に歩み寄る。 せっかく上がったのに少しとはいえ戻るなんて労力が勿体無いよと、自ら差し金を仕向けたヒロトは無責任にもそう思った。 円堂はというと、全く疲れた様子を見せずに、…いや、疲れているのは一目瞭然だったが、それも楽しみの一部だと言わんばかりに目をキラキラと輝かせパチパチと瞬きを繰り返しながらヒロトに笑顔を振り撒いた。 なあ、立ち止まっているだけじゃ、何も楽しめないぜ? ニコニコと円堂は微笑み、くるりと体を回転させ、再び階段を駆け上がっていく。 元気だね若いなぁなんて呟くと、円堂に聞こえたのか同い年だろと笑い声が返ってきた。 陽気に階段を上る様子にヒロトは口の端が上がるのを感じて、ああ、これが円堂くんなんだと改めて納得した。 階段を昇ることを楽しんでいた円堂にも、それが必ず終わるのはわかっていたであろう。 太陽の日差しが溢れている場所が見え出した。逆光により階段に出来た黒く長い影は途切れていた。 さわさわと木々がざわめき、まるでこのまま真っ直ぐ進むと戻れないぞと警告してるかのようだ。 ここはよく鳥が鳴いていた気がしたが、今日は鳥の鳴き声一つ聞こえないと円堂は愚痴を漏らした。 前に一度来たことがあるのかと聞いたら、二回来たよと彼らしからぬ苦虫を噛んだような声が聞こえた。 あとから考えると、ぼんやりと光が溢れている場所の意味を彼はわかっていたみたいで、少し眉間に皺を寄せてた気がする。 俺は意味を知るどころか意味があるなんて考えもしなかったから、ただこの長い階段が漸く終わるのかと嬉々として円堂くんに話しかけていた。 明るい円堂は、ヒロトの他愛の無い会話も全て真剣に受け止め、返した。 そしてヒロトもかけがえのない円堂の為にどんなにくだらない会話でも全て真剣に受け止め、返したのだった。 光が溢れる場所は目的地だったのか。 逆光の為に床が反射し、目も開けられないほど眩しい。 完全に登りきった円堂に手を差し伸べられ、ヒロトは少し驚いた。 お疲れ様! ニッと爽やかに笑いかけられ、ヒロトは緊張が解け破顔する。 君もね、 笑って返した。 円堂の体は、太陽の日差しを背中全身に受けていて、少し眩しかった。光が綺麗に彼を包んでいた。 神様みたいだなって思ってから、彼の中身も十分神様のようだったのを思い出し、ああ、本当の神様を見てるのかと勝手に納得した。 野暮なことを考えてしまった。彼は既に俺の神様だ。 しかし、彼からは本当に後光が差しているかのようだ。目を細めて見つめていると、んっ、と急かすように手を突き出された。 さあ、一緒に行こう。 手を握る寸前で、彼は消えた。 驚くしかなかった。 気付いたら、何故か目の前から彼は姿を消していて、逆光となる眩い光しか彼に突き出されたものは無かった。 「円堂、くん?」 寂しげな声が木霊して、鬱蒼と生い茂る木々の中に溶け込んだのだった。 |