イナイレ文 | ナノ


淡い期待を乗せて



(豪←円)


なんでかな。

静かに彼を見つめていたが、それに対して何も感じないのかどうなのか、特にアクシデントも無く彼は目の前から消えてしまった。

ゆっくり上半身を起こし、背伸びを一つ。
緊張していたのだと改めて実感し、嬉しいのか悲しいのかわからない感情に襲われた。


幾ら会おうと、彼に好意を向けてしまうことはもはや明白で。
円堂守は教室のドアから廊下を歩く豪炎寺修也に目をやり、はぁと一呼吸おいた。

鈍感と言われ続けた14年間、それがなんとなくだがあまりいい響きで無いことは悟っていたが、まさか後々あのまま鈍感であればよかったと思い直すことがあるなんて誰が予想しただろうか。

先程まで机に突っ伏してたせいか、頬からなんだかペッタリとした感触が抜けない。
きっと赤くなっているであろう頬を撫でながら、次の授業はなんだったかなと机の中に手を突っ込んだ。


ああ、でも期待した俺が馬鹿だった。
ついさっきまで机に突っ伏していたのだが、その目の前を豪炎寺が通ったことは直ぐにわかった。
体型とか、足音とかで、己の五感をフル稼働させ一瞬にして気付く存在。

しかし俺の机の前を止まっていくかななんて淡い期待も良いところ、あっさりと通り過ぎたのだ、彼は。
ただ一瞬間、豪炎寺は動きを止めた。
俺に話しかけようとしてるのかな?なんて自惚れもいいところ、思わずガバリと顔を上げたが、彼は考え事をしながらどこにも焦点を合わせず、そして教室のドアから廊下へとすり抜けてしまったのだ。


「ばーか」

ポツリと呟く。
馬鹿、馬鹿、馬鹿

…馬鹿なのは自分だ。


冷めた気持ちで過ごす休み時間、誰かと話す気分にもなれず、そして何かする事も無い故に円堂は再び机に突っ伏した。


…今日は風が強いみたいだ。
窓側の席の子の困ったという会話が廊下側の席まで聞こえてくる。
窓からひゅうひゅうと入る風を少々浴びながら、窓側の席じゃなくてよかったとどうでもいいことを考えた。

ピタッ

「ぴゃっ!」

「はは、良い反応だ」

豪炎寺の声が耳に入る。
首に押し当てられた缶ジュースはかなり冷えていて、円堂の体に鳥肌を起たせた。

「と、突然何するんだよ!」

「いや、面白いかなと思ってな」

朗らかに笑う豪炎寺を睨み付けながら、円堂はぐぬぬと唸った。
そんな様子に豪炎寺は再び笑いながら、んっと円堂に缶ジュースを差し出た。
よく見ると、彼は缶ジュースを二つ持っている。

「いーの?」

「勿論。」

そのつもりで買ってきたからな。なんて目元を細めた豪炎寺に見惚れながら、円堂はプシュリとプルタブを開けちまちまと飲み始めた。

「なんで突然?」

「いや、円堂寝てたからな」

「え?」

「疲れてるのかなと思って。大丈夫か?」

「あ…」

さっき、やはり豪炎寺は俺に話しかけようとしていたのだ。
そして、俺のためにと思って缶ジュースを買ってきてくれたの、かな…?

鼓動が高まる。
彼に目を合わせられなくなる。

なあ、自惚れてもいい?

「だ、大丈夫だぜ!」

「そうか、ならよかった」

にっこりと微笑む豪炎寺。
やばい、耐えられない。
嬉しくて、嬉しくて、たまらない。
にやけてしまう。口角が勝手に上がっていたのに気づき、焦って俯いた。
気持ち悪いぞ、俺…。
兎に角別の話題を振ろうと必死になる。

「き、今日も快晴だな!」

「?
そうだな…。じゃあ窓際まで行かないか?」

「お、おうよっ!」

力みながら返すと豪炎寺は不思議な顔をしてから笑った。


そうして、席から離れて缶ジュース片手にテラスへと足を運んだ。
どうやらかなり風が強く、髪の毛が四方八方に動き回りうざったい。

「…サッカー出来るかな」

「どうだかな」

「こんなに晴れてるのに」

「勿体無いな」


強い風にたじろぎながら話の接ぎ穂を探しあぐねたが、特に見つからずへどもどした。
チラリと豪炎寺の様子を窺うと、彼は焦ることも無くじっと遠くを見据えている。
そんな姿に円堂は落ち着きを取り戻し、不意になんだか胸に迫るものがあった。

「なあ円堂」

「ん?」

「無茶、するなよ」

「…うん」


缶ジュースに口を付けたが、上手く飲むことが出来なかった。
ああ、これ以上期待させないでくれ


「しかし、窓側の席は羨ましいな」

豪炎寺は口を開き、意外な台詞を言った。

「え、なんで?」

「だって、体育でやってるサッカーが見れるだろ?」

お前みたいなこと言うけどななんてくつくつと笑い出した豪炎寺を円堂は一瞥し、そしてまあそれもあるなと納得はしたものの、なんとなく合点出来ない。

なんだよと口を尖らせていると、悪いと答えた豪炎寺は頭をグシャグシャに撫で回し始めた。

そうされている内に、至極満足そうな顔をした円堂は、彼の答えは正しいだろうと強く感じた。


そして、無性に窓際に座りたくなった。
無論彼の隣か前後だと言うことは前提だが。


「今度席替えの時は一緒に窓側の席だと良いな」

「!?」


思わず期待した。







>>
グダグダになった\(^O^)/
この後チャイムが鳴って缶ジュースのお礼をいい忘れたことに気付いた円堂は悶々し始めるんだよ多分きっと。