頂き物 小説 | ナノ


国高様より!!



【ファーストキスは、:浅科様への捧げものです】



ふと目を覚ましたら、すぐ横に円堂がいた。
確かイナズマジャパンの練習が終わった後、二人で浜辺で特訓していたはずだった。
豪炎寺のシュートを円堂が受け止める。
雷門サッカー部に入部してから幾度も繰り返された、言わば円堂とのスキンシップも兼ねた一番効率がいい練習法だった。

円堂と一緒なら、どんなにきつい練習も乗り越えられる。
苦しくても、大変でも、背後から聞こえる声に元気付けられ、もっともっとと上を目指したくなるのだ。

もっと上手く、もっと早く、もっともっと、サッカーを楽しみたい、と。

豪炎寺は円堂が好きだ。
彼以上に信頼できる相手はいないし、鬼道も大切だがそれとは違った意味で『特別』だった。
鬼道が『親友』なら円堂は『相棒』、背中を任せられる対等な人物。

すやすやと砂浜の上で薄汚れた格好のまま寝息を立てる円堂に、自然と顔が綻んだ。
豪炎寺はよく無表情だと言われるが、ことサッカーと円堂に対してはそうでもない。
ちゃんと表情筋もあるし、普段よりはっきり感情表現をしていた。


「・・・円堂、起きろ」


起きろ、と言う割りに声は遠慮がちでとても小さい。
月明かりに照らされた横顔は健やかで、むにゃむにゃと動く口元や、突きたくなるようなまろい頬がとても同い年の男に見えない。
もともと年齢より幼く見えるが、無防備に曝された寝顔が余計にそう見せるのだろう。


「円堂・・・」


月の位置を見れば、もう十分に夜半と呼んでいい時刻と知れる。
こんな時間にイナズマジャパンの宿舎に戻ってないのが久遠にばれたら、大目玉どころではすまないだろう。
しかし自分たちには鬼道というブレーンがいる。
きっと大凡の予想をつけた彼が上手く言い訳してくれているに違いない。
そう考えると益々寝入っている円堂を起こすのが忍びなくなり、代わりにただでさえ近くに居る彼にもっと顔を近づけた。


「なあ、円堂・・・起きないのか?」


口は勝手に言葉を紡ぐ。
二人きりの浜辺には波のさざめく音と円堂の寝息しか聞こえない。

まるで世界に二人きりでいるようだ。

ありえない錯覚だと自覚しながらも、最早豪炎寺の意思とは別に動く体が円堂へ手を伸ばした。
指先が彼の頬に触れ、熱いものに触ったときのように反射的に跳ね上げる。
しかしまたじわじわとした好奇心が沸き起こり、ゆっくりとした動作で予想以上に柔らかかった頬に指先を埋めてみる。
見た目どおりにふにっとした独特の感触は、妹の頬を少しだけ髣髴とさせた。

自然と口元が緩み、くつくつと喉を震わす。
同じ男とは思えない。
肌理細かで触り心地のいい頬を突いていると、流石に鬱陶しく思ったのか、眠ったまま眉根を寄せた円堂は嫌そうに寝返りを打った。
その拍子に頬に触れていた指の位置が移動して、頬とは違う少しかさついた何かに当たった。

びくり、と体が条件反射で震える。
動揺して見開いた瞳の瞳孔は縮まり、きゅっと心臓が竦みあがった。
一拍置いてばくばくと鼓動が跳ね上がる。

豪炎寺の指先が触れたのは、よりにもよって円堂の唇だった。


「・・・・・・」


おかしい。
高鳴る胸を押さえ込み、豪炎寺は混乱した頭で考える。

円堂は男で、自分も男。
相棒で、頼れるキャプテンで、心を許す存在で、誰をも惹きつけるカリスマ性を備えていて───それでも同じ男なのだ。
悪戯心で頬を突いただけで、それ以上の意味はない。そう、意味はなかったのに。

とくとくと音を立てる心臓に、熱くなる体に、赤くなる頬に、戸惑いを覚えずにいられない。
こんな感情知らない。
優しくて暖かくて、強くて苦しくて、胸が締め付けられるような、呼吸すら困難になる複雑怪奇な感情を、豪炎寺は他に知らない。


「円堂」


ぽつり、と密やかに名前を呼ぶ。
離れた距離が近づいて、ほんのりと唇が孤を描いたのが見て取れた。


「円堂、起きろ」


焦りが篭る声。
切羽詰った理性が彼を起こそうと足掻いている。


「頼むから、起きてくれ円堂」


本気で起きて欲しいなら、もっと大きな声で呼ぶべきだ。
風が吹けば消えそうな声量では、寝汚い彼の目は覚めない。
それくらい短くとも密接した付き合いで知っているのに、どうしてもっとちゃんと起こせない。


「円堂」


名前を呼んだのが先か、それとも唇が重なったのが先か。
初恋を認識する前に済ましてしまったファーストキスは、レモン味ではなくどこかしょっぱい味がした。





「ん・・・」


些か寝心地の悪い寝床に一つ寝返りを打ち、開けた口に入った砂の感触に重たい瞼がふるりと震える。
どうやら昨日の豪炎寺との特訓の後そのまま寝入ってしまったらしい。
くあっと大きく欠伸をし、寝転んだまま腕を伸ばす。
その拍子に何かに手がぶつかり、ぱちりと目を見開いた。


「豪炎寺?」


随分と至近距離にある顔に、きょとんと瞬きを繰り返す。
彼も寝ている理由はなんとなく理解できる。
円堂と同じで昨日の練習後疲れて寝入ってしまったのだろう。
もしくは寝入ってしまった円堂を放っておけず、一緒に寝てくれたのかもしれない。

しかし───。


「なんでこんな近い距離なんだ?」


それこそ吐息が触れる距離で寝息を立てる豪炎寺に、疑問符が浮かぶ。
涼やかで端正な顔立ちの彼は眠っていても格好いいが、この距離は一体なんなのだろう。
暫く考えてみても答えは出ず、代わりに腹時計が自己主張した。
ぎゅるぎゅると鳴く腹を押さえ情けなく眉を下げる。
練習後は腹が減るのに、昨日は夜食を取らなかった。

一旦空腹を認識すれば、最早それにしか考えは行き着かない。
一度に複数のことを考えるのに向いていない円堂は、どうしてこんな至近距離で豪炎寺が寝てるかなんて疑問はすぐにどうでもよくなった。
今はただ、朝食に間に合う時間にイナズマジャパンの宿舎に帰らなければと意識が焦るばかりだ。
そのためにはまず、隣でほんのりとした微笑を浮かべて眠る少年を起こすことが先決で、考えを決めれば行動は早かった。


「おい、起きろよ豪炎寺!」
「ん・・・」
「早くしないと朝食を食べ損ねるぞ!なあ、豪炎寺ってば!」


円堂と違い寝起きがいい豪炎寺は、体を数度揺らしただけでゆっくりと切れ長の瞳を持ち上げた。
焦点を定めぬ瞳がぼんやりと彷徨い、円堂を映した瞬間びくりと固まる。


「豪炎寺?どうしたんだ、お前。顔が赤いぞ?」
「っ、どうもしてない」
「大丈夫か?今日の練習参加できるか?熱でもあるのか?」
「だ、大丈夫だ!───そ、その朝食、そうだ朝食だ!朝食を食べるために宿舎に戻ろう」


珍しく焦ったような態度でぎこちない動きのまま立ち上がった豪炎寺に、円堂はこてりと首を傾げる。
まさか信頼する相棒が先に大人の階段を一段上ったなんて考えも及ばない円堂は、同じ側の手と足を出して歩いてく不可思議な態度を疑問に想いつつ、背を向けた彼を追いかけた。

彼らの運命の輪は動き始めたばかりだ。





*

むああああ、超素敵な豪円をありがとうございましたッ!
豪円に飢えていたのでもう涎が止まりませんうへへへへへ←

大人の階段登った豪炎寺さんが初々しくって…!とにかく可愛過ぎますうおおお悶えましたよ…。クッ!

鈍感な円堂くんも凄く凄く可愛いですひゃあああう(^///^)


素敵な小説ありがとうございました!!