言いたいことは素直に言いましょう。



「黒子っち黒子っち黒子ぉおおおぉおおっち!」
「黄瀬くんうるさいです」
「ぶおゅ!」

ひたすら黒子の名前を連呼しながら黒子に飛びついてきた黄瀬の頭を、黒子は容赦なく手にしていた国語辞典でばしっと叩いた。
角ではなく面で叩いただけまだ温情があると言ったところか。

「うっ…酷いっすよ黒子っち」
「図書室で騒ぐ黄瀬くんが悪いです」

泣き真似をする黄瀬をこれまたスパッと切り捨てる黒子。
黒子の視線は明らかに文庫サイズの本に向いており、黄瀬の相手をあまり真剣にする気がないことは明白である。

「いいじゃないすかー、どうせ黒子っちとオレ以外誰もいないんスから!」
「そういう問題でもないと思いますけどね…それで、一体何の用ですか?」

図書室に利用者がいない以上黄瀬を黙らせるのは不可能だと悟った黒子は、ため息をつくとさっさと用を済ませて黄瀬を帰らせる方針にしたらしい。
賢明な判断である。
一方その辺の黒子の心情がみえていない黄瀬は、ぱぁっと顔を輝かせた。

「今日何の日か知ってるッスか?」
「素直に『今日バレンタインなんスけど』と単刀直入な話の始め方をしてください」
「なんでオレの言いたいことわかったんスか!?さすが黒子っち!もはやこれ運命じゃ「気持ち悪いこと言わないでください。今朝、桃井さんからチョコレートをいただいたので今日が何の日かくらいは僕でもわかっています」
(つまりそれって桃井っちが黒子っちにチョコ渡してなかったら知らなかったってことっすよね…)
「何か?」
「イエ、ナニモ」

黄瀬の、考えていることが丸出しの顔を見て、黒子が怪訝そうに問う。
黄瀬は棒読みで返した。


「今日がバレンタインだというのはわかりましたが、それがどうかしたんですか?ファンの子からたくさんチョコもらったーという類の話ならしないでくださいね」
「そんな話しないっスよ!!」
「青峰くんが『黄瀬が女子からチョコもらっただのたくさんもらいすぎて食い切れねえだの言ってきてうぜえ』と言ってましたよ」
「…………」

図書室に沈黙が降りた。

「そ、そういえば赤司っちは何にも負けたことないって前に言ってたんスけど、それってバレンタインのチョコの数もっスかね?」
「さあ…本人に直接聞いたらどうですか?確実に血の雨が降りますけど」
「…………」

顔を引きつらせる黄瀬。
血の雨が降るという表現が大げさでないだけに笑えない。
黄瀬が赤司にそんなことを訊いたのなら、血の雨は確実だ。
もしくは赤司ブリザードだろうか。

「…ふう、」

黒子がため息をついて、読んでいた文庫本をぱたんと閉じた。
ちなみに本のタイトルは『忘れ去られた本当のバレンタイン 〜お前ら聖人が死んだ日がそんなに楽しいか!〜』。
文庫本ではなくラノベかもしれない。

「く、黒子っちもう帰るんスか!?」
「はい、もうすぐ下校時刻ですし」
「え、あ、ちょっとまっ…おぶっ!」

黒子が帰ると聞いてわたわたしだした黄瀬の顔面に、再び平たい衝撃が走った。
ぬるい痛みに悶えている黄瀬を他所に、黒子はさっさと荷物をまとめ、スタスタと出口の方へと歩いていく。

「黒子っち待って!ていうか本は大切に…あれ?」

黄瀬は自分の顔面にぶつけられたものをみて、目を丸くする。
てっきり先ほどと同じ国語辞典だとばかり思っていたが、よくみるとそれはシンプルな箱。

「単刀直入に言ってくださいって言いましたよね?」

チョコがほしいならほしいと言ってください。
そう言って黒子は図書室から出て行った。
置いて行かれた黄瀬はしばし呆然とし、箱と黒子の出て行った方向を交互に眺めること数秒。
数秒後、黒子の言ったことの意味を理解すると、唖然とした顔からとても嬉しそうな顔に表情が変わった。

「よっしゃーーーーー!!!」


ちなみにこの三秒後、黄瀬は司書の先生に「やかましい!!」と怒られることになる。







「あ、」

通学路で、下校途中の黒子がふと思い出したように呟いた。

「箱の中身、紫原くんオススメの明太子ポテトチップス味チロルチョコだって伝えておくの忘れてました…まあ、黄瀬くんですし、大丈夫ですよね」

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120213



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