例えば僕が緑が好きだと言ったなら、君はどんな色を思い浮かべる?
信号機の緑を青と呼ぶように、昔は青と緑の間に明確な線引きはされていなかったんだ。今は恐ろしい程に色は細かく区別され分別されているわけだが、アイスグリーン、ターコイズグリーン、シーグリーン、ペパーミントグリーン、ピーコックグリーン、スレートグリーン、テールグリーン、ホーリーグリーン、エバーグリーン、今挙げた色の軽く倍以上の「緑」という色がある。ナイルーブルーやサックスブルーだって、名前こそ青だけれど僕はあれを緑と呼んでいるんだ。僕が君のその碧い瞳を青と呼ぶように。

色というものは視覚に拠るものだ。そしてそれはつまり主観に依ることを意味している。
僕の緑が常磐色なのか常盤緑なのか、それは僕の緑を見る人に決められる事なんだよ。それを青磁色と呼ぶ人もいるかもしれない。

しかし僕の緑はエメラルドグリーンだ。僕の緑は青じゃあない。
ジェダイトでもネフライトでもない、エメラルド、それが僕の緑なんだよ。

けれどそれは僕以外のおおよそ全ての人間にとってはどうでもいいことなんだよ。
僕がエメラルドスプラッシュと叫ぼうがネフライトスプラッシュと叫ぼうが殺される敵にはなんら変わりのないことだ。ならば僕が僕の緑をエメラルドと称する意味はどこにある? どこにもないじゃあないか。それだと僕の緑が報われない。法皇の緑はエメラルドグリーンなのに。僕の緑は翡翠じゃあない。ペリドットでもない。僕の描く森は、空は、海は、エメラルドだ。

けれども君は僕の緑を識別してくれたね。僕の緑をエメラルドグリーンと解ってくれたね。
はたしてこれは偶然の為せる業だったのだろうか。空の上の誰かさんの悪戯だったのだろうか。いいや、そんなわけがないんだ。そうだったらいけない。君は君であるが故に、君だけは僕の緑が緑であると解ってくれなくちゃあいけない。僕が君の青を青と呼ぶように、君は僕の緑を緑と呼んでくれなくちゃあいけない。

「ねえ、そうだろう、承太郎?」

そういえば君がこんなに長いあいだ黙って僕の話をまともに聞いてくれるのは珍しいね。
でもそろそろ何かしら返事をおくれよ、寂しいじゃないか。
やっと、やっと自分の納得のいく絵が描けたんだ、嬉しいんだよ、つい柄にもなく興奮してこうして延々とくだらないことを喋ってしまうくらいに。
やれやれだぜでも、うっとおしいぜでもいいから、ねえ。

その星の断面から滴る色の赤で、僕の一等大切な君を描いたんだ。

だからどうかその目を開けちゃあくれないか。
僕はもう、君のその青をよく思い出せないんだ。


青には未だ遠い


back


承花ったら承花。
140526




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -