※生存院。というか六部あたりのはずが色々と捏造。きっとn巡後。
※この話の前提として学生時代の承花→色々あって徐倫ちゃんの妊娠発覚と同時に承花破局→これまたいろいろあって離婚、承花復縁という昼ドラ劇があります。



「承太郎、君ってやつは」

ソファーにその馬鹿でかい図体を預け、重苦しい空気を撒き散らしながらひたすら黙りこくっている承太郎を前に、僕はケータイを片手に思わずため息を吐いたのだった。


事の顛末はこうだ。

珍しく何も言わず出かけていったと思えば、妙に真剣な顔をして帰ってきたものだから一体何があったのかと問えば、娘と揉めてしまったから相談にのって欲しいとのことで。
今日は徐倫ちゃんに会いにいっていたのか、相変わらず承太郎は徐倫ちゃんを相手にすると普段の隙のなさや余裕がどこかへ飛んでいってしまうのだなと、どことなく人間離れしている承太郎にも人間臭いところがあるものだ、そう内心微笑ましく思ったのはいいもののこの男、相談したいと抜かしておきながら一言も喋らず黙り込んでしまっていたのだ。
承太郎が何をしたいのか、何を考えているのかが解らないのはもう高校時代からのことなので、すっかり慣れてしまっている僕はまあ話したくなったら話すだろう、と書きかけの執筆作業を続けることにした。
のだが、数分もしないうちに今度は徐倫ちゃんから電話がかかってきて、僕は徐倫ちゃんから怒涛の勢いで愚痴を聞かされたわけなのだが、その内容がなんとも笑えなかったわけで。

曰く徐倫ちゃんには結婚も視野に入れて長らくお付き合いしているアナスイくんという恋人がいるらしく、そろそろ婚約を、というわけでまずは両親に紹介することにしたらしい。至極当たり前かつ真っ当な行動である。
ただ徐倫ちゃんの母親、つまりは承太郎の奥さんだった人なのだが、(主に僕が原因で)承太郎とその人は数年前に離婚しており、よって挨拶も母親と父親別々に機会を設けたらしい。

そして今日がかのアナスイくんと承太郎の初対面だったのだが、承太郎と来たら鋭い眼光をアナスイくんに向けるばかりでろくに世間話もふってやらないわ、アナスイくんが勇気を振り絞って話しかけても「おう」だの「ああ」だのまともに会話のキャッチボールをする気が微塵も見受けられないわで、顔合わせの食事会は惨憺たる結果に終わったらしい。
元々徐倫ちゃんとは対照的に内向的なきらいのあるアナスイくんは、自分が何か粗相をしてしまったのではないか、承太郎に嫌われてしまったのではないかとひどく取り乱しているそうだ。

もちろん彼に非は一切なく、徐倫ちゃんが電話口で盛んに言っていたように(「愛想笑いを浮かべろとまでは言わないけど、親父と来たら! 何が気に入らないのか知らないけど、せめて「娘をよろしく頼む」の一言もあったっていいと思わない!?」)承太郎が徐倫ちゃんのためにも自ら歩み寄りを見せるべきところだったのだが。

「なんだって、徐倫ちゃんが選んだ人にケチつけるような真似をするかな」

まあ、大体承太郎の心境や始終無愛想になってしまった理由は想像がつくのだけれど。

「……違うんだ」
「うん?」

ようやく、まともな言葉を発した承太郎だが、その空気は時化ている真冬の海よりもどんよりと暗い。

「『徐倫を頼む』と……せめてそれだけでも言うつもりだったんだが、いざ目の前にしてみたら、どんな顔をして言ったらいいものかわからなかった」
「それで、緊張と混乱でいっぱいいっぱいで? 結果アナスイくんとの会話もなおざりにしてしまってたって言うのかい? 君は本当に空条承太郎なんだよな?」
「笑いたきゃ笑えばいいだろう」
「笑いやしないよ。君も一人の父親だったって解っただけだ」

笑わないとは言ったものの、ついつい頬が緩むのはどうにもならない。項垂れたままだった承太郎も気配でそれを察したのか、じとりとその緑の目をこちらに向けた。

「まあ、とりあえず徐倫ちゃん達には僕からうまく言っておくから。また後日改めて、埋め合わせはしてあげなよ、お父さん」
「……徐倫に、」
「え?」
「徐倫に言われたんだ」

僕の揶揄めいた言葉を無視して、唐突に言葉を発した承太郎に呆気にとられた僕は、続く言葉に思わず眉間に皺を寄せた。

「『父さんはアナスイが気に入らないかもしれないけど、家庭を顧みなかった父さんに、結婚や結婚相手のことについてはどうこう説教されたくはない』ってな」
「……正直僕も耳が痛いね、それに関しては」
「俺は誰かと暮らすには向いていないとも言われた」
「ああ、それは同感だ」
「お前も、俺は家庭に向かないと、誰かを愛したりするのには向いていないと思うのか」

なんだか面倒くさい方向に勘違いしつつある承太郎に、僕は今日何度目になるか判らないため息をつく。

「君は実に馬鹿だな」
「おい」
「承太郎、今君の目の前にいるこの僕は誰だ、言ってみろよ」

不満げにしていた承太郎が、僕の言葉にはっと目を見開いた。

「花京院、」
「そう、花京院、花京院典明だ。君と徐倫ちゃんの確執の一因でもあるし、けれども徐倫ちゃんの友人でもあり理解者のひとりでもある。そしてなにより、僕は空条承太郎を世界一等に愛しているし、君に同じように愛されていると自負している」
「ああ……そうか、そうだったな」
「言われて気付くようじゃ僕は悲しいんだがね」

安堵したように目元を緩ませる承太郎に、賢いくせに妙なところで考えが及ばない馬鹿野郎に、僕は言葉を重ねる。

「君は言葉が足りなさすぎるんだ。それと人の話を聞かなさすぎる」

なまじ頭がいいばかりに、何でもかんでも自分で考えて考え込んで抱え込んで自己完結してしまう馬鹿。自分に向けられる感情に関しては視野狭窄に陥りがちな大馬鹿野郎。

「もうちょっと僕を信じてくれないか。徐倫ちゃんのことも」
「すまなかった、花京院」

僕の言わんとすることを理解したのだろう。やはり何だかんだと言っても承太郎は聡い。

「なあ」
「なんだい、承太郎?」
「埋め合わせの時は、ついてきてくれないか。お前のことも、紹介したい」

徐倫のもうひとりの親として。俺の伴侶として。そうしたら今度こそ、娘と向かい治せる気がするんだ。
言外に含まれた意味に、徐倫ちゃんはともかくアナスイくんは驚くだろうなあ、と苦笑を浮かべてみるものの、けれども十数年ぶりに何かが正しい方へ向かって動き出すのを、不謹慎さをどこか感じながらも嬉しいと思う僕は。

「パフェにチェリーが乗ってる店がいいなあ」
「さすがにお前の奇癖を披露するのは早すぎるからそれはやめてやれ」

段々調子を取り戻してきた承太郎が笑う。

徐倫ちゃんを傷つけた。承太郎を苦悩させた。きっとたくさんの人に迷惑をかけた。誇れはしない。僕自身も傷付き懊悩して、いろんなものを引きずって今ここにいる。
けれど僕は、承太郎を愛したことを、承太郎と家族になったことを、絶対に後悔しない。

きっと徐倫ちゃんとアナスイくんも、そうやって家族になっていくのだと、承太郎が一刻も早く気付くことを願うばかりだ。


大馬鹿野郎に告ぐ


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140317




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