「馬鹿ですね、ほんとうに」
だから、貴方は僕の目の前からいなくなってしまったんでしょう。
実際に目の前から去ったのは彼ではなく僕だという事実を棚に上げて、僕はため息をつく。
静かに、雨が降っていた。
ただただ、降り止まずに、降り続けていた。
「誰も彼も、馬鹿ばっかりだ」
この世は皆、馬鹿で溢れている。
彼がもう少し賢ければ、自ら死に急ぐような真似はしなかっただろうし、僕がもう少し賢ければ、彼らを守るために旅路を共にすることも、あるいはその終りを共にすることも、出来たかもしれないのに。
「貴方、勉強がしたいって言っていたでしょう」
どうせ貴方みたいな大馬鹿に付き合ってられる教師なんて僕くらいしかいないのに。
それに、僕みたいな凶暴な馬鹿に付き合ってられる生徒なんて貴方しかいませんよ。
どうして一人で逝ってしまったんです。何故僕を連れて行ってくれなかったんです。
だから貴方はド低脳の大馬鹿野郎なんです。僕の気持ちなんて一生かかっても理解できないんでしょう。実際一生の間に理解せずに逝ってしまった。
貴方は馬鹿だから、僕の気持ちなんて知らないだろうから、僕に生きろなんて言うんでしょうね。
きっと追いかけることを夢に見ることすら許さないんでしょう。
僕はまだ生きなければなりません。貴方を見捨てた代償に。
貴方を追いかけてゆけません。貴方を見つけられないかもしれないんです。
だからどうか、いつか僕が彼岸を訪う時は、貴方が僕を見つけてください。
「……頼みますよ、ナランチャ」
僕はもう、貴方の温度も思い出せないんです。
雨はまだ、止みそうにない。
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140317