文鉢
「愛してるんです、」
縋るように、鉢屋は言う。俺の装束を握りしめて。
「愛してるんです、潮江先輩」
繰り返す鉢屋の、俯いたその表情は窺えない。
ただ、泣きそうな声だと、思った。
「あいして、」
なおも言葉を重ねようとする口を、右手で塞いだ。
上げられた面が、視線が、何故と、どうしてと訴える。
「……ばかたれ」
この体を、抱き締めて。温もりを重ねて。ふざけているように見えてその実健気な後輩の言葉に応えて。
愛するのは簡単だ。
想いが通じあっているのなら、なおのこと。
だが。
「愛するわけには、いかねえんだよ」
ぽとりと雫の落ちる、音がした。
130418