「愛情表現ってヤツですよ」 | ナノ

「愛情表現ってヤツですよ」



移動教室で呼び止められ渡されること三回(土方、生物遅刻)、「土方くんちょっといいかな〜」と連れ出され渡されること三回(周りの目線が土方死ねって行ってた)、その他無言で鞄や引き出しに押し込まれたり。エトセトラエトセトラ。妬みでも嫌みでもなんでもなく土方がモテる理由はさっぱりわからない。顔か。やっぱり男は顔か。顔と身長と頭脳か。華のバブル期と何一つ変わっちゃいねえ、こんな世の中ポイズン。くたばれ土方、くたばれバレンタインデー。今日下校中後ろから非リア童貞に思い切り刺されろ。


「っていうけどお前だってチョコ貰ってんじゃん現在進行形で食ってんじゃん」
「でも俺のはオール義理チョコですもん」
「そりゃあお前がまともに女子からモテるわけねーだろ」
「アンタも大概まともじゃねーですけどねー」


いい加減チョコレートうぜえ、ってイケメンだけに許された贅沢な理由で教室のベランダにエスケープした土方を、内側から窓枠に肘をついて眺める。困れ困れ、ヤンデレやメンヘラにでも熱烈アプローチされてもっと困ってしまえ。きっととんでもなく愉快なのに!ニヤニヤと笑っていると、膝を折り曲げて壁にもたれかかっていた土方が辟易した目を寄越した。


「お前またろくでもねえこと考えてんだろ」
「やだな〜土方さんがメンヘラ女に好かれて心中を迫られるラブストーリーしか考えてねーのに!」
「恐ろしすぎるわ!」


律儀に全力でツッコミをくれた土方はあーもうまったくてめぇはとか何とかひとりごちて、はぁ、とため息をついた。諦めたらしい。だって、口喧嘩と想像力なら俺のほうが断然上だ。


「あー……めんどくせ」
「アンタマジで刺されやすよ」


長い手足を折り曲げて地べたに座った土方は隣に置いた紙袋を眇めて言う。心底から面倒くさそうに言うので紙袋の中身の渡し主はほんとうに報われないと思う。土方なんてやめとけ、所詮顔(と体)だけだから。
思いを込めて作られて、丁寧に可愛くラッピングされたチョコレートもまさか厄介者扱いされるとは思ってもいなかっただろうに、哀れな。知ってるか、お前ら食べてもらえるとしてもマヨネーズをどっぷりかけられてなんだぜ、可哀想に。


「食べねぇの?」
「あー……どうすっかなぁ……」
「どーせアンタ甘いの苦手でしょーが、俺食いやす」
「別にいいけど。どれがいい?生チョコとかケーキとか色々あるみてぇだけど」
「全部」
「は?」
「それ全部くだせぇよ」


俺が食い尽くしてあげやす、アンタに向けられる恋心まるごと全部。ついでにキラキラのラッピングも中に入った丸文字の手紙もすべてぐちゃぐちゃに丸めて報われない恋で終わらせてあげよう。どこの誰か知らないけれど、ホワイトデーに泣くがいい!ああやばい、帰り道に刺されるのは俺のほうかもしれない。殺される気はさらさらないし反省する気もさらさらないけど。だって、絶望的にお人好しなこの人の相手はこれくらい強かでないと。
ニコニコと笑むと土方は心底不思議そうな顔をした。なんでィ。チョコレート渡すより、ずっとずっと大きな愛だろう。


「お前ってそんなにチョコ好きだったっけ?」
「あんまり好きじゃねーです。せんべいとかポテチとか、しょっぱいモンのほうが好きだなァ」
「……マジ意味わかんねー……」







沖田くんの愛情表現:×土方にチョコレートを渡す ○土方宛のチョコレートを食す

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