マフィアにストロベリー | ナノ

マフィアにストロベリー



今日の総悟はいつにもまして不機嫌だった。ノックなしに俺の部屋の襖を、あからさまな苛立ちを見せながら乱暴に開けたと思ったら、そのまま、これまた許可なく俺の読んでいた書類を躊躇なく払いのけるのだ。それは先日の討ち入りについて山崎が寄越した報告書で、あとは日付を記すだけだったのだが総悟の右手でピシャリと弾かれのでそれは叶わない。衝撃で皺を伴って、重力には逆らわずに床に落ちる。せめて汚さないためにも拾おうとして手を伸ばすのだが、総悟は寸分の興味も沸かないようで目線ひとつもくれずに踏みつけやがった。欠片も躊躇いというものが見当たらないからほんとうに手に負えない。無情な足の下で重要書類はぐしゃぐしゃと形容できるほどの線を作る。総悟が右足を左右に捻る度にどんどんと。あーあー、まったく。


とりあえず破れなかったらもういいや、と諦めのため息を吐いて総悟を見ると相当ご立腹のようである。色のない瞳がきゅうと半分ほどに細められこちらを見下していて、言葉にこそ出していないものの、全身から不満が汲み取れるのだ。まるで我が儘な王子様だ。向けられるまなざしは、ただの、ほしいものが手に入らない子供と変わらない。眉をひそめて辟易してしまう。しかしどうにもこの権力を持った子供のご機嫌とりをするのは俺の役目なのである。


「どうしたんだよ。」


コイツの気まぐれはべつに今に始まったことじゃない。昔からままあることだ。しかも突発的なうえに滅茶苦茶で、理解出来ないのだからたちが悪いと思う。平気で常識の範疇を越えてくるので手に余る。そしてほぼ確実に周りを巻き込むんだから大概にしてほしい。そのうえ、こうなったらどうにもこうにも止まってくれないのでどうせ俺の問いかけも聞こえていないはず。ほら、やっぱり聞こえていない、ばっさりと無視がやってきた。


「なあ、」


せめて話し合いには持っていきたく、とりあえずご機嫌とりの甘い声でそうごと名前を呼んだら、眉間にシワを寄せて明確に嫌悪感を表された。それどころか盛大な舌打ちまでする。瞳にたっぷりの呵責を滲ませてだ。まったくもって意味が分からないと濃いため息をつくと、不機嫌顔をずい、と近づけられた。そうして、息を吐き出して、吸うために開いた俺の口へ、荒々しいキスのように噛みつくのだ。
目も閉じず、がじがじ噛みついてくる総悟の犬歯が刺さると唇の内にある薄皮が裂ける。あーあーとしょうがなく思った。好きなようにさせてやると、沖田は立て続けに、欲望を宿した双眸をして唇をくっつける。柔く小さく触れたと思ったら、唾液がなるよう奥深くくちづける。噛みついたり、舐めるような真似をしたりする。何度も躊躇なく俺の息を奪って、意識の奥底まで焼き付けるように存在感を残す。ただ、呼吸が難しくなるまでそうして総悟が慣れないことをするのでこちらがたまらなくなり、着物の合わせから手を差し込むとどうしてか嫌がるのだ。そういうことじゃないのか。ますますわけがわからない。怪訝な表情で見やると、総悟はやはり不機嫌そうに、ようやく言葉を紡ぎ出す。


「今日の昼何してた。」


それは予想外で、単なる日常会話のようであるため全くピンとこなかった。眉根を寄せる。意図が分からずぱちぱちとまたたきをすると総悟は疎ましそうに二度目の舌打ちをするのだ。早く思い出せ、と言外に込められる。本日の昼、と昼飯を食べるあたりから素直に記憶を探り始めると、早くも痺れを切らしたらしい総悟が、綾、と吐き捨てるように人名をこぼした。呼び慣れ、そして聞き慣れた女性の名が不意に飛び出して、そうしてようやく思い出す。


「お前見てたのか」


俗に言う告白シーンを。綾というのは花街の、いわゆる遊女である。ただし恋人でも客でもない。情報収集のため、単なる仕事上の繋がりとしていたのだが、どうやら向こうはそうではなかったらしいのだ。本日の昼過ぎ、浪士の目撃情報を聞き尋ねていた最中、頬を赤らめ瞳を潤ませ澄んだ声で愛欲を告げられた。その現場を総悟は見ていたらしく、それが今回の気まぐれの原因のようである。


「それならお前、俺が断ったのも見てたんだろ?」


迷うことなく無情に。と胸中で継ぐ。すると総悟は先ほどと打って変わって、泣き出しそうな小さい子供のように唇を結んでこくりと頷くのであった。かと思えば攻撃的な目線をし、腕を組んで


「俺がいるのにアンタはスキだらけだ。」


なんて真っ直ぐに、透明なまなざしを持ってして言う。確かにそうだ。じゃあスキなんて出来ないようにもっとお前が素直になってよ、と手を伸ばすと書類のごとくピシャリと弾かれた。しかし総悟はその、弾いた俺の手をぎゅうと掌で包み込んで自らの頬に持って行く。アーモンド形の目を伏せて、総悟は俺の手指を柔らかい輪郭に寄せる。まるで慈しむかのような行いをされ、目を細める。
持ち上げられた手指は重力には従うことなく、冷えた床とは間逆の温かい総悟の唇に触れた。ぷっくりと膨れた赤いそれを親指で押してやると、総悟はまだまだ不満なようで唇を尖らせた。言葉足らずで無茶苦茶で、先をねだって駄々をこねるただの子供の表情をする。お前が居るから断ったんだろうと、仕返しに噛みついてやるとようやく総悟は充足した顔をした。そうして胸元に手を伸ばしてみると今度こそ断られることはない。総悟が高圧的に、早くしろと言うので続きを早くすることにする。ハイハイ、わかりましたよ王子様。







愛情表現が滅茶苦茶で、言葉の足りない沖田可愛い。製作時間は奇跡の20分でした。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -