跳ねるように飛び起きた。
心臓の鼓動は寝起きとしては少し早い。ほんの短いかけっこを終えた後のようだ。気分は悪くない。むしろささやかな達成感があった。
「危ねえ。昼寝の間に消えちまうとこだった」
寝こけていたソファにもたれ、誰に言うでもなく呟いてみる。
消失からの逃亡。あの絢爛豪華な墓場に辿り着いたのは、ここ数十年で何度目のことだろうか。
そう、あれは間違いなく死へ続く夢だ。
「最後の時っていうのはもっとこう。そうだな、ドラマチックさが必要だぜ」
夢の残り香(なにせあそこはむせ返るような芳香の嵐だ。)を振り払うように頭を揺らす。
左右に流れる視界に一点、見慣れないものがよぎった。同時に聡明な俺は、右手がなにかと繋がっていることにも気付いてしまう。
「……タ」
見下ろせば子ども。その口からはローカル言語の感謝の言葉。
達成感の元はこれか。おてて繋いでお昼寝、だなんて。最後にしたのはいつだろうか。
俺がなにも言わないでいると、どこかかつての弟子に似た面差しの子どもは、逡巡するように唇を噛んで、それから
「ジャンジャカジャンジャン」「それはいい、それはいいから。お前、名前は?」
なにやら勘違いしているようだ。俺は間違ってもジャガイモ星の化身ではない。遮るように、墓場では届かなかった質問をもう一度投げかける。
「四国、ニュージーランド村」
子どもは確かめるように繋いでいない方の手をグーパーグーパーとしながら言った。
「シ国。はじめて聞くが、その顔からするとアジア圏か。でもTaってオージーとかキウイとかあっちだよな」
「えっと、四国は日本の地域。ニュージーランド村は、ニュージーランドを模したアミューズメントパーク。あー、あなたは?」
「本田んとこのやつか。聞いて驚け! 俺様は超かっこよくて超賢くて超すごい、プロイセンの化身ギルベルト・バイルシュミット様だ!」
胸を張って答えてやると(子どもの質問には明瞭かつ正しく答えるのが大人の義務ってもんだ。) 、四国ニュージーランド村はぽかんと口を開けた。
「がいにたいぎなお人やなあ」
「ん? どういう意味だ?」
「あー、あー、カッコイイなあって言ったんですよ」
「そうかそうか」
俺様はニコニコしながら四国、(面倒だからタカマツでいいだろ。)タカマツの肩を掴み、
「チビが俺様を謀るとはどういうつもりだコラァッ!」
教育的指導を食らわす。
「痛い!!」
「プロイセン様舐めてんじゃねえぞ」
額を抱えるタカマツにびしっと指をつきつける。齢二十も超えていないだろうおこちゃまに、王国様が騙されるわけないだろうが。
拾ってやった恩義も忘れて『たいぎ』だと。ったく。どういう意味だ。わからん。わからんが悪口だっつーことはわかる。にしても本田のところは地域差で言語が違いすぎるぜ。
「うー、えらい目にあったわ。ごめんまい」
赤くなった額を撫でながら、涙目のタカマツはまんまるい頭を下げた。
反射的にその後頭部(兄というのはこういうものには悲しいかな弱いのだ。)をぐりぐりと撫でる。細くてなめらかな髪が指に絡んで気持ちがいいが、タカマツは驚いたように顔を上げた。
「あーうーおれ今頭あったんやね」
どうやら俺が手を引いたのは本当にギリギリのことだったらしい。いまだ自分の体が戻りきらないタカマツは、不思議そうに俺の手に擦り寄ってきた。人によく慣れた動物のようだ。
「おかえり、タカマツ。どうだ世界は」
××