何もない場所にくるものだと思っていた。
消失後の話だ。薄々、自分が消えてしまうのだと気付いてはいた。(なんと言ったって僕はかのこんぴらさんの子どもの子どもみたいなものだからね。)(そしてキウイの私生児。なんともややこしいのだけれど。)
そして『僕』が消えてしまった後も、僕があり続ける限り、僕はこの世界にいるものだと確信があった。それでは問一、『僕』の消失と僕の消失の間、僕はどこにいるのだろうか。
解一、何もない場所に。くるものだと、思っていた。
真っ白で静かで、羊も木々も、それどころか僕さえ確かじゃない場所に。
けれど『僕』の消失と共に僕の目前に現れたのは、それはもうめまぐるしい色の洪水!
まるで小学生と中学生、それと美大生の絵の具を全部ぶちまけたような景色に僕は何度も目を疑った。疑うべき場所は目だけじゃない。
耳にも、鼻にも、聞いたことのない音楽やひとつも聞き取れない話し声、嗅いだことのない匂いが何重にも折り重なって五感を揺さぶる。気が狂いそうで、けれどどこか懐かしい。泣きたくなるくらいの感傷が、一気に心を襲う。
ここは『僕』たちの墓場なのだ。
極彩色の戒名、爆音の卒塔婆、むせ返る遺骨。そんなものになって、『僕』たちは消えていく。
消失というのは、もっと密やかなものだと思っていた。
考えている間にも、段々と自分と世界との境界が曖昧になっていく。
僕も他の僕たちと同じように、二度目の消失を待つのだろう。
もう確かじゃない瞼を、ゆっくりと、下ろしていく。
「ジャンジャカジャンジャンホットケーキィィィィッー!!!!ウェウイッヒィー!!!!ジャンジャカジャンジャンジャガイモヒィー!!!!」
「……はあ!?」
ほとんど閉じかけた瞳が意識する前に開く。爆音の渦を切り裂くような声!じゃがいも!
「――!――――?」
見開いた目の先には、真っ白な、真っ赤な男が立っていた。(真っ白な肌、真っ白な髪、真っ赤な目が覚めるような赤い目!)
彼はなにか言いながら首を傾げるが、声は辺りの騒音(そんな可愛いものじゃないけれど。)がかき消してしまう。
兎のような男は、兎も真っ青の狼の様に兎に似た目を歪ませ、もう指が五本あるかも疑がわしい僕の手を、取った。
「―――!」
そして一気に走りだす。僕は床を蹴る足も不確かなまま、引きずられるように男についていく。幾万の色が追いすがり、幾千の言語が僕を呼び止める。
それでも、
××