アイスを半分こ





「ずっと前から好きだったの! よかったら私と付き合ってほしい……!」

「……ごめん、俺好きな人がいるんだ」







蝉がうるさく鳴く8月半ば。今日はこの夏一番の思い出かもしれない。振られた夏。
私にはずっと好きな人が居た。去年の夏頃恋心を自覚して約1年。意を決して告白したがあの人には好きな人がいるらしい。なんだかんだ一年色々あったなぁ…。と思っていたらじんわり涙が出て来た。

「あーーもう……っ」
「七海」
「岳人…?」

ふと呼ばれた名前に少し警戒したが顔を確認したら幼なじみの岳人だった。

「どうせ、振られたんだろー」
「ぐす…うるさい…。てか何でここに居るって分かったのよ」

お前昔から嫌な事あると空が広々見えるところ行くだろ、と笑う岳人。そういえば小さい頃から嫌な事があると一人になれて空が見える場所に行く。そして一番に見つけて慰めてくれるのは岳人だったな。
岳人が思い出したように手に持っていた袋を探り徐に手を差し出す。岳人が持っていたのは

「アイス。桃とぶどう! 先にどっちがいい?」

小さく……桃。と呟くとやっぱりなと言いながら桃のアイスキャンディーをこちらに渡す。どういう事か訪ねると私は昔から桃味のアイスやお菓子が大好きだから最初に選び、幸せを半分こ!と言って岳人のと交換するらしい。なので岳人は私を慰めるときにはいつも桃味の物ともう一種類違う味を持って来てくれていたのだ。

「ていうか、アイス買ってくるなんて私が振られるのを知っていたみたいじゃない」
「…知ってたっつーの。俺あいつに好きな奴がいるの知ってたから七海が今日振られるの知ってた」
「は?」

私は散々岳人に相談していたのに。こいつは知っていて黙っていたのか。そう思うと振られたせいで脆かったメンタルがさらにぐちゃぐちゃになり怒りまで沸いてきた。

「何で言ってくれなかったのよ馬鹿!」

ほとんど八つ当たりなのは分かっていた。でも溢れ出す涙は止まらない。ぼろぼろと涙をこぼしながら岳人を睨む。

「クソクソ! しょうがねぇだろ! 好きな奴が悲しむのなんて俺だって見たくねーよ!」

一瞬時が止まる。え、岳人今なんて言った…? 岳人の顔を見ると真っ赤で。私をからかっている訳ではなさそうだ。

「俺がなんのためにお前を一番に見つけてたと思ってんだ!」

他の奴に泣き顔なんて見せたくねぇし、慰めるのは俺だけで良いと思ってたからだよ…。そう言いながらしゃがみ込む。予想外すぎてどうしたらいいのか分からない。恐る恐る名前を呼ぶが反応がない。私も岳人と同じようにしゃがみこむと頭を抱えながら あークソクソと叫ぶ岳人。
きっとこちらを見たら素早い動きで手に持っていた半分に減っているアイスを私の口に突っ込む。と同時に私の食べていたアイスを奪うとこっちを見て

「絶対俺の事好きにさせてやるからな!」

と言って屋上から出る扉へ向かう。

「ちょ、岳人!」

これで俺の幸せ、分けられただろ!と叫んでいる岳人を追う。
この暑さは周りの気温なのか、それとも。
口に含んだ半分のアイスはとてもひんやりとしていた。







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