1.美しい世界を見る為に今日も





もうすぐ葉桜になりそうだな、と木を見上げて思う。こないだまではピンク色の花びらがそこら中についていたはずなのに。時が過ぎるのは早いなあ。首にぶらさげているカメラを構える。ファインダー越しに緑とピンク、そして空の青がいっぱい広がる。

ああ、この世界が好きだ。

写真は真実を写す。昔から良く言われていた事だ。私は小さい頃からこの正解に魅了されていた。元はおじいちゃんがカメラ好きで、小さい頃カメラを貸してもらったのが私の世界が始まりだった。実際の目で見るのとカメラ越しに見る世界は違って見えて。大事な一瞬をボタン一つで閉じ込める。その時の一瞬を私の世界に閉じ込める事が出来るのだ。なんて素敵な世界だろう。嘘も偽りもない美しい世界。

カメラを構えたままそんな事を考えていると突然呼ばれた名前に肩がはねる。そこに居たのは私の幼なじみで。

「亜美ちゃん!」
「また写真撮りながらぼうっとしてると怪我するよー」

部活中なのか、ジャージを着てカラーコーンを持っていた。淡い水色と白色のジャージ。右肩には7本のラインが入っている。
そうか、ここはちょうど共同用具倉庫の近くなのか。いつの間にかこんな所まで来ていたんだろう。自分の馬鹿さに呆れる。自分がどこを移動していたのかも分かっていないなんて…。

「亜美ちゃん手伝うよ! 今日撮りに行くのテニス部だし!」
「いいの?ありがとう。結構量あって2往復しなきゃなって思ってたんだ」

助かっちゃう。と言って笑う亜美ちゃんは凄く可愛い。本当に。お母さん同士が仲良くて小さい頃から仲が良かった私達。亜美ちゃんはその頃から可愛くて、本当のお姫様みたいだった。その反面私はただのおてんば娘でよくお母さんを困らせていた。「亜美ちゃんみたいにもう少し可愛げがあればいいのに」と言われたほど。余計なお世話だけど!そんな可愛い幼なじみを見ていると先ほどの可愛い笑顔からニヤニヤとした顔になって「撮るのもそうだけど、主な目的は別でしょ?」と言われた。やっぱり亜美ちゃんには敵わないなあ。そうテニス部の写真を撮るのはもちろんだけど、私にはもう1つ目的がある。テニスコートにつくとちょうど休憩中。カラーコーンをそこらへんに置き私はある人物を見つけ駆け寄って行く。

「ひーよーしーくーん!!!」
「うわ、また来た…」
「今日もかっこいいです! 好きです!」
「俺は好きじゃありません。さようなら」

あぁっ、冷たい日吉くんも素敵!! そんな言葉を投げかけるとため息をついてラケットを持って行ってしまう日吉くん。なんて今日もかっこいいんだろう!!
私のもう1つの目的、それは日吉若くん。かっこよくて素敵で私の王子様!!
そんな事を私の幼なじみに言ったら日吉が…王子様?なんて引いていた。あんなにかっこいいのに。あの魅力に気づかないなんてかわいそうだ。周りの人にはもう見慣れた光景なのか、最初こそなんだあいつみたいな目線を送られたが今は見て見ぬ振り。ていうか、気にしてない。そんな感じで日吉君くんに会う事が私の日課です!

「おい、藤木。てめぇ毎日のようにいい加減にしろよ」
「げ、跡部…」

日吉君を見つめていたら後ろから声をかけられる。テニス部部長、跡部だ。

「今日は部活だもん」
「なら真面目にやれ」
「日吉くんに愛を伝えるのも私の大事な使命です!」
「…」

うわ、すっごい哀れみの目を向けられてる傷つくわー。
ほどほどにしとけよ、と言って練習に戻ってった。いつも練習中は邪魔した事ないでしょ!と跡部の背中に叫ぶ。休憩中や部活終わりに絡んでも練習中に絡んだ事はない。運動部は練習命。そんな事いつも見ているから知っている。練習の邪魔だけはしたくない。さて、私もそろそろ写真を撮らないと部長に怒られる。





今日はとってもいい写真が撮れた。岳人が飛んでいる所。ジローちゃんのボレーが決まる瞬間。鳳君がサービスエースをとる所。跡部のキメ顔。あれ、最後いらない。もうすぐテニス部も終わるらしいので今日は亜美ちゃんとそのまま帰る事を伝えたら部長に明日は戻ってきなさいよと言われた。これで明日は部室に寄るのは確定である。跡部の部活終了の声が聞こえ、亜美ちゃんが着替え終わるのを待つ。跡部に遅いから車で送ってやると言われたが遠慮しておいた。跡部に送ってもらったら駅前のクレープ屋さん寄れないもん。部室の前で待っていると中から出てきたのはなんと!

「日吉くん!」
「…お疲れさまです」
「あからさまに嫌そうな顔したね! めげないけど!」

帰りも日吉くんが見れるなんていい事ありそう! なんて言ったら無視された。その後出てきた鳳君は笑顔で挨拶してくれた。

「お前さ、毎日よくやるよなー」
「もう藤木ちゃんが日吉に絡むの恒例になってきとるなぁ」
「岳人に忍足」

笑いながら出て来る2人。テニス部に押し掛けるようになってから約3週間。ていうかまだたったの3週間だよ!岳人がふと「お前さ、何で日吉の事好きになったの?」と聞いてきた。私は大真面目に

「日吉くんは私の王子様だからさ!」

そう答えた。本人が居たらさぞ顔を顰めるであろう。レギュラー軍からは日吉が!王子!なんて亜美ちゃんみたいな反応を返された。爆笑しながら。そんなに変かなあ。私にとってあの日は忘れられなくて。日吉くんは本当に王子様に見えた。岳人達と話していると亜美ちゃんがやって来て、帰る事にした。
帰りに食べたクレープはとっても美味しかった。ほら、やっぱりいい事があった。







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