(わちゃわちゃは組/兵太夫が女の子です)












 扉を開けるとそこは不思議な空間でした。

いつも通りに朝、登校してきた金吾は教室の戸を不用意に開けたことを死ぬほど後悔した。
いや、本来ならば通いなれた教室の戸を開けることに何の用意をする必要があるのかというところなのだが。だがしかし、せめて、昨日の放課後に団蔵やきり丸が盛り上がっていた話題を思い出すべきであった。
目の前に広がる光景を認めたくなくて、金吾は頭を抱え、開けた戸を一度閉める。いっそ今日はサボろうか、いやでも戸部先生に怒られるし。そもそも外見こそ金髪に黒髪と派手な金吾であるが、中身は庄左ヱ門や乱太郎、伊助達と同じくらいに真面目なのである。
サボりは、だめだよなあ。

 教室の戸の前でぐぬぬと悩んでいると、ガラッと戸が開き、にいやりと嫌な笑みを浮かべた兵太夫ときり丸が金吾の腕を掴んだ。因みに二人の頭には(というか教室にいる生徒の頭には)、猫耳がオプションとしてついている。本日2月22日は猫の日らしい。つまり、そういうことだ。
悪ふざけで前日に猫耳を買い漁ってきたクラスのトラブルメイカーは当日の朝っぱらから、クラス中の人間に猫耳をつけさせていた。ご丁寧にデジカメまで用意している。
昨日の放課後、騒いでいたのは知っていたが。まさか本当に実行するとは。お祭りごとが好きだとは知っていたが、これは、ない、だろう。あと数ヶ月で、自分たちは高校生になるのだぞ。

「ばっ、馬鹿じゃないのか、お前ら……!」
「まあまあ、庄ちゃんも観念して被ってんだし。お前だけ逃れられると思うなよ」
「え」

 きり丸に言われて教室を見渡せば、複雑そうに顔を歪めて猫耳を被っている庄左ヱ門の姿が見えた。一番抵抗しそうな庄左ヱ門が既に落とされた後と知り、金吾はうな垂れる。それじゃあ俺も素直に言うこと聞くしかないじゃあないか。
というか、自分だけ逃げたら逃げられなかった庄左ヱ門になにをされるかわかったもんじゃあない。我らが学級委員長様は優しい優等生と評判でまさにその通りである反面、たまに黒を通り越して暗黒化するから怖いのだ。
庄ちゃん怒らすな、だめ、絶対。これがこのクラスの暗黙のルールでもある。

 観念しなっと兵太夫にぐい、と顔をつかまれ、無理矢理猫耳をつけられる。因みに白い猫耳だ。兵太夫ときり丸は黒い猫耳をつけている。最早抵抗もするまい。
にんまりと満足げに笑う兵太夫は珍しく乗り気で、背伸びをして金吾の頭をなでた。

「かわいいね、金吾。おまえ、ツンデレだから、猫耳にあうね」
「男に、可愛いとか、言うな」
「じゃあへたれ?」
「殴るぞ」
「ふうん、女に、手、出せないくせに?」

 くすくす笑う兵太夫はなんだかいつも以上にご機嫌だ。しかし、全く。可愛いなんて男には褒め言葉にもならないのに。
金吾はため息をついて猫耳に手を伸ばすが、兵太夫にキッとひと睨みされて手を下ろす。勝手に外すなということらしい。
三ちゃん次カメラこっちー!と兵太夫が友人を呼ぶ。呼ばれた三冶郎は兵太夫と同じようにご機嫌な様子で虎若の猫耳姿をカメラにおさめていた。虎若は苦笑いだ。こちらも無理矢理つけられたのだろう。
伊助と乱太郎は少し照れくさそうにしているが、満更でもなく楽しそうだ。しんべヱは猫耳つけたままでもおにぎり(持参だろう)をもっさもっさと食べているし、喜三太も相変わらずナメクジを愛でている。猫耳をつけて。しめりけコンビは猫耳をつけると、なんだかシュールだ。

 悲惨な様子に一時間目が土井先生の授業でよかったなあと思う。あ、だから朝からこんなことやってるのか。つまり土井先生も巻き添えにするつもりなのだろう。
教卓の前にわざとらしく置いてあるピンクの猫耳が目に入り、ご愁傷様ですと心の中で手を合わせた。

……ところで、これ、いつ外していいのかなあ。








120223

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