(三治郎と孫次郎)






 孫次郎は食べるということが嫌いだった。億劫でたまらなかった。だって、食べ物の味など孫次郎にはわからない。たとえば食堂のおばちゃんの煮物、甘くて美味いと評判の団子、そんなものを食べても、おいしいとは感じなかった。いや、正しくはおいしいという味がわからなかった。おばちゃんの煮物はからすぎずあますぎず、良い塩梅だとは思う。団子も甘く感じる。でもそういったもの全てがおいしいと感じることはできないのだった。
 それでもね、ごはんを頂くってことは大事なことで罪深いことで、感謝すべきことで、うん、すごく、大事なことなんだよ。三冶郎は笑って、手を合わせる。

「命を頂いて、命を貰うんだ。だから、手を合わせるの。命を頂きますって、そうして、命をありがとうございました、ご馳走様ですって。また手を合わせてお礼を言うの」

 残酷だね生き物は。でもそれが生き物だものね。笑って、三冶郎は美味しいと評判のおばちゃんの煮物を口に入れて咀嚼した。ごくりと、噛み砕かれたにんじんが喉を通っていく。孫次郎も同じように美味しいと評判のおばちゃんの煮物のにんじんを口に入れる。噛んで、味わって、喉へ通す。

「おいしいね」
「うん、おいしい」

 たぶんね。孫次郎が言うと、あははと三冶郎は笑った。やっぱり孫次郎にはおいしいものがわからなかったけど、みんなが美味しいというなら美味しいのだと思った。




120118

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