(富松←池田と左近)(成長)





 五年生になって身長の伸びた俺は、あの糞生意気な一つ上の先輩を見下ろせるようになった。昔から喧嘩ばかりのあいつに唯一(と認めるのは癪だが)勝てたのはこの身長だけで、まあ俺は見下ろすたびに優越感に浸っていたわけだ。けど。
 目の前でにこやかに談笑してるのは保健委員長である三反田先輩と、大嫌いなあいつ。いつものように眉を寄せて不機嫌な顔ではなく、困ったような、でも楽しそうに頬を緩ませている。
別にだからといって何があるというわけでもないけれど。いや、なんつうか。すっげえ腹が立つわけでして。しかもあっちは気付いてねえし。俺と居る時はそんな顔しねえじゃん、いつも嫌そうに顔を歪めるか馬鹿にしたような笑みしか浮かべないくせに。
なんだよそれ。


「……まーた不機嫌な顔してる」
「あたっ」


 後ろから投げられたトイペが頭に当たり、前のめりになる。振り返ると呆れた顔の左近が立っていた。
あにすんだ。


「なにすんだよ、左近」
「別に。ただ、そんな殺気篭った目でうちの委員長凝視しないでくれる?」


 投げたトイペを拾いながら左近はため息をついて言う。殺気篭った目で、って。三反田先輩にって、どうして三反田先輩に。俺が嫌いでたまらないのはその隣の富松だ。それは左近も知ってるだろうに。
 意味がわからないという顔で左近を見れば、左近は呆れたとでも言うような顔で面倒くさそうに俺を見ていた。


「馬鹿ってほんと救いようない」
「馬鹿って…先週の試験で俺に負けたくせに」
「そういう意味の馬鹿じゃねえよ、ばーか」


 馬鹿馬鹿と連呼する左近を追いかける。そういえば左近も見下ろせるようになったな。ぽんぽんと左近の頭に手を置く。すると左近は俺を見上げて睨んできた。左近も身長は気にしているらしい。
 そういえば富松も俺が見下ろすと、不機嫌そうに俺を見上げて睨んでくるよな。その度に俺は優越感にひたるわけで、って。あれ。


「……ん?」
「なんだよ」
「いや、なんつうか。……あいつを見下ろす時はもっとこう、嬉しいのになあ、って」


 それなのに、左近を見下ろしてもそんなに気分がよくなることはなくて。なんていうの、普通。相手が友達だからかな。うん、そういうことだろう。
 ふむふむと一人で納得していると、左近はまた呆れた顔をしてため息を吐いた。なんだよ。





腐れ果実に忍び寄るマーキュロ









(鈍感馬鹿には付き合ってらんないよ。)

透徹/110122