少し不安げな表情のツナに見送られ、弁護士のもとを訪れた雲雀。
契約破棄の申し出は、意外にすんなりと受諾された。
理由を問われ、「好きな人ができた」と答える。
「そうですか・・・では、」
笑みを浮かべながら弁護士が雲雀の右耳の後ろに触れると、途端にその身体は崩れ落ちた。
「契約を・・・解除します」
雲雀の主人の遺言は三つ。
”雲雀が全財産を相続すること””自分以外の人間を愛さないこと”
そして雲雀が聞かされていなかったもう一つの事項。それは。
”守られなかった場合、彼の全ての機能を停止すること”

午後の十時を過ぎても戻らない雲雀を心配し、ツナは独り事務所を訪れる。
「雲雀さんは、ここに居るんでしょ?」
と睨み付けるツナに、弁護士はにこやかに笑いかける。
「彼は愛する人ができたから、ご主人との契約を破棄したいと言っていました。もうすでに無効になりましたよ」
いぶかしげに見つめるツナを一瞥し、口元だけの笑みを絶やさず問う。
「彼に抱かれたのですか?」
「・・・な!!」
「いかがでしたか?彼は性行為のために作られたセクサイドだ。彼の身体は最高だったでしょう。・・・彼女も・・・彼の女主人も、彼の身体に夢中だった・・・」
弁護士は一瞬だけ目を伏せてから真っ直ぐにツナを見つめ、冷たい微笑を向けた。
「しかし残念ですねえ。その機能はもう完全に失われてしまった。セクサイドとしての彼は、今やただの鉄くずでしかない」
下を向いて黙り込んでいたツナは、小刻みに震えながら口を開いた。
「・・・雲雀さんを、返して下さい」
弁護士は口角を上げて笑うと、事務所の出口を指差した。
「どうぞ、持って行ってください。地下三階の廃材置き場です。右耳の後ろに、再生スウィッチがありますから」

ツナがB3Fの扉を勢いよく開けると、そこには鉄材と無数のアンドロイドたちが一緒くたに積み重ねられており、その間から、指にシロツメクサを結びつけた腕が、ツナの方に向かってまるで助けを求めているように、伸びていた。
ツナは大声で何度も彼の名前を呼びながら、必死にその身を引きずり出した。
無数の傷や汚れは付いているものの、幸い目に見える欠損は見当たらなかった。

ツナは、自分よりも大きく重い身体を担いで屋敷に連れ帰った。
本来ならもう入る権利のない場所だが、今の自分たちには他に帰る場所はない。
ツナはリビングのソファーに雲雀の身体を横たえると、耳の裏に手を伸ばしスウィッチを入れた。
ウィーンと小さな機械音の後、ひばりはぱちり、とその目を開けた。
「ひばりさん・・・ひばりさん・・・」
夢中で暫くの間抱きついて彼の顔を見上げると、雲雀は艶やかな笑顔をツナに向けた。
「初めまして、ご主人様」
雲雀の腕にしがみつきながら、凍りつくツナ。
「君は、どんな夜をお望みなの?」
雲雀はすでにリセットされており、女主人の記憶も、ツナとの記憶も、残されてはいなかった。
暫く呆けた様に口を開けて雲雀の顔を見つめていたツナは、やがてぽろぽろと涙をこぼし、微笑んだ。
「何もいらないです・・・ただ、側に居てくれるだけで・・・」
そんなツナを、雲雀はただ不思議そうに見つめるだけだった・・・。



ああ長かった・・・。
しらいしがシリアスな話を考えると、なぜかハッピーエンドにはなりませんです。
ちなみにストーリ上にはまったく出てきませんが、弁護士と雲雀の主人はもと夫婦で、旦那の仕事が忙しすぎて放置されていた妻がセクサイドにはまり離婚、今だ妻を愛していた旦那は、彼女を奪った機械に嫉妬と怒りを募らせる・・・という裏設定です。




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