「閉ざされた僕の世界に色をつける」

三ヶ月前両親を亡くした沢田綱吉は、生活のため、とある豪邸で家政夫として働き始める。
そこの主は雲雀恭弥と言う名のアンドロイドだった。
”夜のお供”として作られた彼は、一年ほど前に亡くなった女主人と交わした一つの約束の代わりに、彼女の全財産を譲られることになった。
「この先ずっと、他の誰かを愛さない」
それが彼女と交わした契約だった。
雲雀と生活を始めたツナは、そのあまりの暴君振りと毒舌にあきれ果てる。
「あんたよくそれで仮にも・・・サービス業?みたいなの、やってられましたね」
と噛み付けば、
「ご主人様には優しいよ?特に、ベッドの中ではね」
と余裕の笑みを浮かべる。
性行為どころか、女の子と手さえ繋いだ事のないツナには、時々こぼれる彼の発言は刺激がありすぎた。
もう何も言うまいと、黙々と家事をしながら伺い見て知る。出窓に置かれた一つのプランターに水をやる以外、雲雀が行動を起こすことはほとんどない。後は日がな一日、黒猫をなでながら窓の外を見ているだけだった。
(あんなんで、退屈しないのかな・・・?ロボットだから?)
彼の横顔がひどくさびしそうに見えて、気になり始めるツナ。
「このプランターの中、シロツメクサですよね?」
と尋ねると、
「公園で、拾った」
「お金もちなんだから、花の種くらい買えるでしょう」
雑草と呼ばれる類の花を大事に育てる雲雀に、半ばあきれて言うと、暫くの沈黙の後、ぼそり、と彼が呟いた。
「・・・自分のものが、欲しかった。」
それがどういうことなのか、ツナには分からなかった。分かりたいと思った。
だが、それにはいろいろと問題があった。
雲雀は食事をしない。食べることはできるが必要ではないので食べない。
独りで食事を取りながら、ツナは、一緒に食事をする時間がなければ、こんなにも会話が少なくなってしまうのだと、気づく。

そんな日々の中、黒猫が交通事故にあって亡くなる。
ただ黙って窓の外を眺める雲雀に、ツナが怒鳴りつける。
「こんな時くらい泣けばいいだろう!!ここには俺しかいないんだから、我慢する必要ない!!」
雲雀は一瞬、珍しく驚いた顔をして、
「・・・涙を流すなんて機能はない」
その言葉にツナは始めて、雲雀が機械であるという事実を忘れていた自分に気づき、気まずい雰囲気が流れる。
雲雀は再び窓の外に眼をやり、小さな声で呟いた。
「・・・君は、面白い」

昨日と同じ日常が始まる。雲雀は相変わらず窓の外をぼんやりと眺めていた。
夕方ツナが自分用の食事を用意するためキッチンに立っていると、雲雀がやってきて言った。
「僕の分も、用意して」
予想外の言葉に固まるツナ。返ってこない返事に口を尖らせ、
「・・・ダメ?」
そのあまりに子供っぽいしぐさに、一瞬真っ白になりながらも、あわてて意識を呼び戻し、首をぶんぶんと横に振った。
「俺だけだと思ってたんで・・・チャーハンですけど、いいですか!?」
雲雀はふわりと微笑んで頷き、部屋に戻っていった。
(笑った・・・笑った?笑えるんだ、あの人!)
にんじんを刻みながら、ツナの頭の中ではさっきの雲雀の笑顔がぐるぐると廻り続けていた。

お互い言葉は少ないながらも、食事時の会話が成り立ち始めてきた頃。
その夜はまるで嵐のように荒れ、屋敷中の窓ガラスが雨に打ち付けられ、大きな音を立てて揺れていた。
ツナは眠れず、雲雀の部屋の前で布団をかぶって震えていた。
三ヶ月前、あの日もこんな嵐だった。
ツナと両親は親戚の家に用事があり、その帰り道だった。
「こんなひどい天気なんだから、安全運転よ」と、母親が釘をさした矢先だった。
目の前に迫ってくる大型トラックは、もうすでに避け切れる距離ではなかった。
後部座席のツナは奇跡的に全治一ヶ月のケガで済んだが、両親は即死だった。
(嵐は、苦手なんだ・・・)
分厚い壁の向こう側のぬくもりを頼りに無理やり眠ろうとすると、ふいにドアが開いた。
「なにしてるの、そんなところで」
「・・・あ、いえ・・・」
見慣れた端正な顔を目にした途端、作り上げた笑顔と同時に知らずこぼれてきた涙がぽろぽろと布団を濡らし、ツナ自身驚いた。
雲雀はそんな様子をじっと見ていたかと思うと、突然ツナを抱き上げ、自室のベッドへと運んだ。そして自らも、隣に横たわる。
「今日はここで寝ろ。・・・これは命令だから」
ぎゅうっと抱きしめられるぬくもりを感じながら、胸の中で小さく、
「ありがとう・・・ございます・・・」
と呟いて、いつしかツナは眠りに付いた。

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