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俯く俺をヒバリさんは黙って見ていたが、やがて「沢田」と静かに俺を呼んだ。
「もう一度、質問するよ?」
顔を上げた俺の視線を捕らえると、穏やかな口調で続けた。
「どうして、僕に嫌われたと思ったの?」
怒らないから言ってごらん?ヒバリさんの目はそう言っているようだった。
俺は少し考えて、ぽつぽつと話し始めた。
「ヒバリさん・・・草壁さんに、馬鹿な奴は嫌いだって、言ってましたよね?」
「?・・・ああ」
ヒバリさんは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに思い出したようで素直に頷いた。
「それが何?」
先を促すような仕草に、胸がちくん、と痛くなった。
「俺・・・馬鹿ですよね」
「うん、莫迦だね」
「ヒバリさん、俺のこと、嫌いですよね」
「・・・なんで?」
一瞬、会話が止まって沈黙が走る。
ちらりとヒバリさんを見上げれば、ひどく訝しげな表情をしていた。
「ヒバリさんは、馬鹿な奴は嫌いなんだって、言いました・・・よね?」
「うん、嫌い」
「俺・・・馬鹿ですよね?」
「うん、非常に莫迦だと思う」
「なら・・・俺のこと、嫌いですよね?」
「・・・なんで?」
あ・・・あれえ?
なーんか今ものすごーく、この人との距離が遠く思えたんですけど・・・。
ヒバリさんは暫くきょとんとしていたが、やがてだんだんと目が据わっていき、不機嫌そのものといった様子に変わっていった。
「何を言いたいのか、さっぱり判らない」
・・・いや、俺にもさっぱり判りません。
というより、日本人と話している気がしないんですが・・・。
険悪な雰囲気の中、ヒバリさんがぽつりと言った。
「君ってほんと、異星人みたいだ」
どっちがだ!
「でも、君と付き合ってみて、一つだけ判った事がある」
ヒバリさんはそこで一度言葉を切り、こちらをじっと見つめた。
「僕が君を異星人だと思うように、君も僕を異星人だと思っているって事だ」
・・・・・・・・・。
あ
次の瞬間、かあっと頭に血が上った。
・・・恥ずかしくて。
俺はヒバリさんの考えばかり変だと思っていて、ヒバリさんもそう思っているなんて考えもしなかった。
それって傲慢・・・とか言わない?
本当は、考え方が違っていただけなのに。
でも、ヒバリさんはちゃんとそれに気がついていた・・・。
ヒバリさんは、恥ずかしさに消え入りそうになっている俺を一瞥すると、ふっと横を向いて呟いた。
「・・・でも、異星人と付き合うのは、面白い」
じんわりと、心の中が暖かくなった。
こんな俺を、全て受け入れてもらえたようで。
「ヒバリさん」
名前を呼ぶと、横を向いていたヒバリさんが俺のほうを向いてくれた。
それがとても嬉しく思えて、俺はヒバリさんに向かって微笑んだ。
「これからも、よろしくお願いします」
「・・・うん」
足元の雪ももうすっかり溶けて、地面に吸い込まれていた。
春はすぐそこまで、やって来ている。
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