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午前中ずっと、先生の言葉も獄寺くんや山本の言葉でさえ、右から左に筒抜けだった。
どうしようどうしようどうしよう。
頭の中はそれだけでいっぱいで、他の事を考えている余裕がなくて。
四時間目の終わりを知らせる鐘の音も、ただぼんやりと遠く響いているだけだった。

「大丈夫?ツナ君」
頭上から落ちてくる優しい声にはっとして頭を上げれば、京子ちゃんが俺の机の横に立ち、心配そうに見下ろしていた。
その後ろではやはり同じように、獄寺くんも山本も、いつも憎まれ口ばっかり叩いている黒川でさえ、困ったような顔でこちらを見つめている。
皆に心配かけたくなくて、俺は無理に笑顔を作った。
「大丈夫だよ?俺いつもどおりだから」
「・・・そっか」
張り付いた笑顔の俺に、京子ちゃんは何か言いたそうだったが、そのまま口を閉じて窓の外に視線を移した。
・・・ごめん、ちゃんと笑えなくて・・・。
「あれ?」
心の中で一生懸命に謝っていると、京子ちゃんは訝しげな声を洩らした。
「ねえ、あの校門のところにいるの・・・ハルちゃんだよね?」
その名前を聞いた途端俺はばっと立ち上がり、窓に張り付いて京子ちゃんの指差すほうを見た。
・・・確かにハルだ。
なんか・・・校門の前で、草壁さんと言い合いをしている。
俺は教室を飛び出すと、二人のいる場所めがけて走り出した。


「ハル!何でこんなところに・・・学校は!?」
「ツナさん!」
ハアハアと呼吸を乱しながら叫ぶと、途端にハルは、オレンジ色の自転車を横に押さえながら嬉しそうな顔をした。
「昼休みの間だけです!ツナさんをおうちまで運びますから、後ろに乗ってください!」
「ハル・・・」
胸がじんとして泣きそうになるのを必死で抑えながら、俺はこぶしを握り締め、草壁さんのほうを振り返った。
「今日だけです!今日だけ・・・」
その後なんと言葉を続けるべきか迷っていると、草壁さんは学ランを翻して俺に背を向け、じゃり、と溶けかけの雪を踏みながら校舎に向かって歩き始めた。
「・・・健闘を祈る」

・・・もう、何なんですか。ハルと言い草壁さんと言い、もう、
俺、惚れちゃうじゃないですか!

「ツナさん早く、乗ってください!」
急かすハルの言葉に促され、俺は自転車の荷台に乗り込んだ。
「マッハですから!」と言う言葉通り、ハルの自転車は凄いスピードで進んでいった。


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