30


今にも降って来そうな薄暗い暗雲の元、僕はがりがりと音を立ててペンを動かしていた。

正直、イラつきもピークに達している。
ここ一週間毎日、沢田は「用事がある」といって放課後の時間を断ってくる。
何処で何をしているかなど十分に判っているし、それが他ならぬ僕のためであることも承知している。
が、しかし。
それでもイラつくものはイラつくのだ。
大体、いつになったらあれは完成するのか。
部下の「失敗に終わりました」という報告を受ける度に、ああまた明日もあの柔らかい身体を抱きしめられないと思い、がっくりと肩を落とす僕の姿を、沢田は知る由もないだろう。
しかも、不安に駆られこっそりと見に行ってみれば、あの他校の女とやたら仲が良さそうに・・・いやもちろんあんなのに嫉妬したりはしないが、僕といちゃつく時間をかっ攫われている様な気分にはなる。
「・・・十五センチだ」
きっかり十五センチ。
料理を教わっているのだから手元が近づくのは仕方がないにしろ、身体が十五センチ以上近づくのは許さない。
そうなった時には何が何でも邪魔をするよう、見張りの委員にも言い渡してある。
それにしても本当に・・・あの子はどれだけこの僕を振り回せば気が済むんだろう。
でも、まあいい。それもあと少しだ。
もう、あと一日を残すのみとなったバレンタインデイ当日。
あの子がチョコレートを渡しに来た時には、もう泣こうが喚こうが絶対に離しはしない。
沢田だって、これだけ僕を我慢させておいて、菓子一つで済むなどとは思っていないだろうから。


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