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「ケーキは失敗しやすいですから、クッキーとか・・・もっと簡単なものなら、チョコにフレークやナッツを入れて固めるだけでもキュートなのができますよ!」
「うん、じゃあ、それにしようかな・・・俺ほんと、不器用だからさ〜」

昨日本屋でハルにばったり会った俺は、その場で「チョコ作りを教えてほしい」と頼み込んだ。
ハルはしばらくきょとんとしていたが、すぐにぱっと笑顔になり、
「黒い人にですね!」と叫んだ。
いったい何処まで噂が広がってるんだろう・・・それはそれでちょっと怖い気もするが、説明しなくていいのはありがたかった。
だって・・・恥ずかしいじゃん!
とにかく今日は、二つ返事でOKしてくれたハルの家にお邪魔して(うちじゃあ邪魔者が多すぎて料理どころじゃなくなるだろうし)、早速お菓子教室を開いてもらうことになったのである。

「・・・ツナさん、さすがにそのナッツは大きすぎますう・・・レーズンも、刻んで小さくしましょうね」
「わわわ、ナッツが弾けてどっか飛んでっちゃうよ!」
「はれ?他の材料は何処に行っちゃったんですか?」
「・・・たぶん、冷蔵庫の下とか戸棚の隙間とか・・・窓から飛んでっちゃったのもあると思う・・・」
「あ、チョコはもっと入れないと固まりませんよ・・・って、入れ過ぎです!流れてます!」

そうして三十分後には、三浦家のキッチンは戦場と化していた。

「・・・ごめん」
しゅんとしょげ返る俺に、ハルは笑顔を見せて言った。
「大丈夫です!まだまだ時間はありますから、きっとだんだん上手になりますよ!」
「でも、俺の手作りより、買ったものの方がいい気がしてきた・・・ヒバリさんの、お腹のためにも」
「そんなことないです!ヒバリさんだってツナさんの愛情がこもっていれば喜ぶと思います!それに・・・」
ハルは俯く俺の顔を覗き込んだ。
「ツナさんは、ヒバリさんに「大好き」って伝えたいんでしょう?」
直球で訊かれてすごく恥ずかしくなった。ハルといるとこういう気持ちになることが多い。
でも俺、ハルのこういうとこ好きだ。自分には絶対真似できない。
絶対に赤くなっているだろう自分の顔を見られたくなくて、俯いたままだったけど。それでもその素直さにつられる様にこくんと頷いた。
するとハルはいきなり俺の頭を抱きかかえ、自分の胸元にぎゅうぎゅうと押し付けてきた。
「きゅーとですうう〜ツナさん可愛すぎ!このままぬいぐるみにしてお部屋に飾っておきたいですうう!」
「ぐえ!く、苦しい・・・って言うより、胸!俺だって男なんですけど!!」
ハルのワリと豊かな胸にぐいぐいと顔を押し付けられたら、その気がなくても男としての本能があ!!


ばきっ


「・・・?・・・今の音、何?」
「・・・さあ?外から聞こえたみたいですけど・・・」
何かが折れるような大きな音に、ハルに抱かれた姿勢のまま、俺たちは動きを止め顔を見合わせた。
そしてどちらともなくくすくすと笑いあうと、ハルは腕を放して「そういえば」と何かを取りに行った。
やがてパタパタと軽い足音を立てて戻ってきたかと思うと、「はい」と俺に何かを差し出した。
渡されたのは・・・掌くらいの大きさの、ハートの抜き型。
「これなら、溶かしたチョコを流し込んで固めるだけです!これにツナさんの気持ちを書いてあげれば、思いはばっちり伝わります!」
俺はぱちぱちと瞬きをして、しばらくその抜き型を見つめた。
そしてゆっくりと顔を上げると、ハルに笑いかけた。

「ありがとう」

精一杯の感謝をこめて。
ハルも嬉しそうに、「がんばりましょうね!」と笑って小さくガッツポーズをした。


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