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学校行きたくない・・・。

頭まで布団にくるまって独りきりの空間を作っても、小鳥のさえずりもランボの甲高い声も響いてくる。
いんや、聞こえない!布団の中は暗いんだ、誰がなんと言っても夜だ今よる!
あったかい布団と凍える冬の朝。布団を取るに決まっている。いつもと何も変わらない。
一つだけ違うのは・・・いつもなら顔を洗う時の冷たい水さえ我慢出来ちゃうほど会いたい人に、会いたくないってこと。

きっと会ってしまえば、ヒバリさんはまたあの無表情でやりたいって言うだろうし、俺は拒めないだろう。
実際、自分自身の気持ちがよく判らないのだ。
本当にそれが嫌なのかって言うと・・・そういう訳じゃない気は、する。
身体ばかりを求めてくるヒバリさんも、はっきり拒否できない自分も、突き上げられてる最中、心は冷えていくばかりなのになぜか熱を持っていく身体も、自分の意思とは裏腹に何度もイってしまったのもそれを見て嬉しそうに笑うヒバリさんも。
何もかもがぼんやりと霧を纏ったまま、頭の中をぐるぐると廻っている。

「逃げちゃいたい・・・?」
布団の中でぼそりと呟くと額に金属の冷たさを感じる。嫌な予感と共にがばりと布団を押しやれば、案の定小さな家庭教師様が銃口を俺の額に押し当てていた。
全く、この家は感傷に浸る場所もない。
「そんなのは、おめぇみてえな餓鬼には百年はええんだ」
「・・・人の考え読むなよリボーン」
「ほれ、さっさと支度しねえと・・・お迎えが痺れ切らして踏み込んで来るかもしんねえゾ」
小憎らしいヒットマンはニヤニヤ笑いを浮かべながら俺が今一番触れられたくない話題を振る。
・・・絶対わざとだ。
俺は黙って暖かい布団から抜け出し、制服に着替え始めた。
リボーンは暫くの間楽しそうに人の着替えを見ていたが、やがて嫌がらせにも飽きたのか、ふっとそっぽを向いた。
「今朝はずいぶん早くから待ってるゾ。珍しく焦ってる様に見えんな」
身支度を整えかばんを手に部屋を出ようとした時、リボーンが俺の背中に声をかけた。
・・・そんな訳ないじゃん。何時だって、動じやしないんだから、あの人。

顔を洗って気を引き締めるようにほっぺたをぺちぺち叩き、みんなのいるリビングに入る。
ランボとイーピンが朝食のウィンナーを取り合ってる。
いつもどおりの朝。
自分で起きてこなきゃだめよ、なんて母さんの小言を背中に聞きながら、グラスに注がれていた牛乳だけ口にする。
ごめん母さん、今朝は食べる気になれない。

「言ってきます」と叫び、慌ただしく玄関を出ると、案の定ヒバリさんが待ち受けていた。
「おはよう」
「・・・おはようございます・・・」
俯いたまま挨拶を返す俺を、ヒバリさんがガン見している。下を向いていたって分かるのだ。ヒバリさんの視線は。
ヒバリさんは暫く俺のことを見下ろしていたと思ったら、その両手で俺の頬を柔らかく包んだ。


びくん


・・・しまった。
慌てて顔を上げると、ヒバリさんが驚いた顔をしていた。
違う・・・違うんです、触られるの嫌だった訳じゃない。ただ吃驚しただけで。
そう言い訳をしようとしたけど、声が出ない。不甲斐ない自分に泣きたくなった。今の俺、きっとすごく情けない顔をしているだろう。
好きな人に告白できて恋人にだってなれたのに、俺って何で何時までもこんななんだ・・・。
大きく見開いていたヒバリさんの目は、やがてだんだんと細くなっていき、気付けばひどく不機嫌な表情になっていた。
・・・怒らせた、かも・・・。
必死に声を出そうとがんばっていた俺は、本格的に涙が溢れそうになって来てしまって仕方なく俯いた。
こんな場面で涙に訴えたくはない、そう思うだけのプライドは残っていた。
するとヒバリさんは腕を伸ばし、がっちりと俺の手を掴んだ。
そして山本の前から連れ去った時のように、有無を言わさない強い力で俺を引っ張って行ったのだった。


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