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応接室のソファーで俯いて紅茶を飲みながら、時折仕事に就く人の様子を窺う。
だからと言って顔は上げられない。
なぜかと言うと・・・その人は今朝からずっと、俺のことを見ているから。

昨日応接室でそれとなく拒んでからというものヒバリさんは何も言わなくなったが、その代わりなのか俺をずっと目で追い続けている。
相変わらずの無表情なのに・・・顔にしっかりと、書き込まれている。
「挿れたい」って。
この人って、こんなに判り易いタイプだったっけ?
確かに我慢強かったり隠し事の得意なタイプではないとは思うけど。
だからと言ってこんなにあからさまな視線は初めてで、戸惑いを隠せない。

お・・・俺だって、別にそれが嫌なわけじゃあないんだけど!
俺だって男な訳だし、性的なことに興味津々なお年頃だし!
だからと言って・・・だから、その・・・。
いや、正直になろう俺!
ぶっちゃっけたところ、俺「身体だけが目的なの?」とか思ってる!
身体だけって何なんだ!女の子か俺!
でも、でもさ!ヒバリさんこの間からずっとえっちな方向に話持って行こうとしてるし、しかも言葉選んでよなんでそんな直接的な物言いなんだよ!
「ご飯食べよう」と同じ顔して「セックスしよう」なんて言うなあ!
思わずがばあとローテーブルに突っ伏して恥ずかしさに身悶える。
ほんと俺何馬鹿なこと考えてんの!女の子じゃないんだから・・・。
「・・・・・・」

そう、でも本当は、きっと。

昨日応接室で、「早く挿れたい」って言われた時、「甘い雰囲気なんていらないから、セックスだけしたい」って言われた気がして、すごく悲しくなった。
何それ身体だけが目的!?って思って・・・次の瞬間、そんな自分の思考に血の気が引いた。

俺は、女の子じゃない。
身体が目的な筈さえないんだ。

・・・じゃあ、俺が今ここにいる理由って何なんだ?
ヒバリさんは何で俺と付き合うのOKしたの?
何で俺を抱いたの?
・・・いっそのこと俺が女の子で、身体が目的な方がよかった・・・
「沢田?」
「ひゃあっ!」
頭に掌のぬくもりを感じて慌てて飛び起きると、目の前にヒバリさんの顔があった。
「どうしたの?気分悪い?」
あ・・・俺ずっと突っ伏してたから・・・て言うか見てたの!?いや見てたよ!ヒバリさんが俺のこと見てたの知ってるじゃん!
今思いっきりヒバリさんの存在忘れてた!
俺がフルフルと首を振ると、ヒバリさんは暫く俺のことをじっと見つめて、唇を寄せてきた。
・・・唇、あったかい。
俺、ヒバリさんにこんなに優しくされているのに。
好きな人にキスされて、こんなに幸せなのに。
なんで、こんなに泣きたい気持ちになってるんだろう。

絡ませた舌を解きまた俺の顔をじっと見ていたヒバリさんは、なんだか少し困ったような顔をした。
ぼんやりと見つめ返す俺の頭の中は、まだ少し混乱していて。
でもきっともうこれ以上、
この人を拒めないなと、どこか他人事のように感じていた。


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