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昨日応接室を出てからずっと、ヒバリさんの顔が頭から離れなかった。
俺のことをトンファーで殴ったヒバリさんは、殴られた俺よりも辛そうな顔をしていた。
あんな顔、らしくない。
恐る恐る応接室のドアをノックすると「誰」と声がかけられた。
正直怖い。でも、昨日のヒバリさんの顔が気になってしょうがないのだ。
「沢田です」
意を決して返事をしたが、そのまま声がかかる事はなかった。
このまま帰れと言うことだろうか。自分の身が可愛いなら、そうすべきだろう。
そっと扉を開けると、鬼の風紀委員長は窓際の事務机に向かって仕事をしているようだった。
「何か用」
こちらを見もせずに投げ出された言葉に、ひどく悲しくなった。
確かに元々俺たちの間には線が引かれてはいたけれど。
でも俺は好きな人を傷つけた・・・のだと思う。
「俺、ヒバリさんの事好きです」
冷え冷えとした空気の中、俺は覚悟を決めて伝えた。
ボコられるのはしょうがない。でも明日から目も合わせてもらえないのかと思うと、泣きたくなった。
涙が零れない様にぎゅうっと目を瞑る。
「一昨日俺、それを言うつもりでここに来たんだと思います。ほんとは言うつもりなかったけど、リボーンに死ぬ気弾打たれて・・・
でも俺、何か間違っちゃったみたいで、なのに緊張してたせいか覚えてなく」
ぎゅ・・・と、言葉の途中で温かいものに包まれた。
目を開けてみると、黒髪と黒い学ランの背中。俺、ヒバリさんに抱きしめられてる・・・?
「君、僕に付き合えって言ってた」
「え?」
顔を動かしてヒバリさんの方を見ようとしたけれど、頭ごと抱えられていたために耳までしか見えなかった。
付き合えって・・・それって?
「それって、じゃあ、俺言いたい事間違えてなかった?」
「うん」
「・・・じゃあ、いいよって言ったのって?」
「付き合ってもいいって言ったんだ」
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