委員長が見回りで外出中を狙って、放課後沢田が一人で廊下を歩いているところへさりげなく近づいていく。
あくまでも自然に――こういうのは昔取った杵柄、得意なのだ――沢田とすれ違うときに軽くぶつかった。
「おおっと」
「うわぁっ、す、すいません」
バサバサバサ、と抱えていたダンボールから手紙が廊下に散らばった。
「ごっごめんなさいっ!オレ、ぼーっとしてて!」
「いや、こっちこそすまないな。荷物が多すぎて前が良く見えなかった」
沢田は慌てて俺と一緒に散らばった手紙をかき集めだす。

・・・よし、予定どおりだ!

「大変ですね、草壁さん。これ全部風紀委員のお仕事の手紙なんですか?」
かき集めた手紙をダンボールに戻そうとして、ふと沢田の手が止まる。
多分、表書きに気がついたのだろう。
「いや、どちらかというと委員長個人宛のプライベートな手紙だ。」
要するにラブレターなのだとさりげなく匂わせてみる。

俺としては
『すっすごい!ヒバリさんってこんなにラブレターもらうんですかっ!?モテモテなんですね』
などと、和やかな会話が広がるものだと思っていた。これを取っ掛かりにして色々聞きだしてみるつもりだったのだ。

ところが沢田は、手紙を握り締めたまま、眉をひそめて下を向いて黙ってしまった。
気のせいか、微かに肩が震えている。
・・・なんだ?この反応は。

好都合にも
「あの・・・大変そうだしお手伝いします」
と沢田が言い出してくれたので、応接室に引っ張り込むことにした。
委員長にバレたらフルボッコの上リーゼントを引きちぎられそうな気がしたが、沢田の反応が気になるので背に腹は替えられない。

「あ、そっちじゃなくて、準備室のほうに置いてくれるか?」
沢田が委員長の机の上に手紙を置こうとしたので、後ろの扉のほうを顎で示す。
「えっ、でもこれヒバリさん宛てなんじゃ・・・」
「委員長はそういう類の手紙は一切お読みにならんのでな。風紀委員で内容確認して、お礼状の類なら簡単に報告だけするんだ。」
「お礼状・・・ですか?」
「風紀委員の見回りで助かったなどのお礼の手紙は結構多いぞ。」
まぁ、あわよくば委員長と・・・という下心満載の手紙がほとんどなのだが。
ああ見えても委員長の密かなファンは多いのだ。
「そうなんですか・・・ヒバリさん、読まないんだ。よかった」
そいうってふにゃんと笑った沢田のぽやぽやした笑顔をみて、この男子生徒に恋をしてしまった委員長の気持ちがちょっと分かった気がした。
―――いや、だからといって俺は男に走ったりなどはしないが。

ん?ちょっと待てよ。
俺は感動の嵐に翻弄されながら、くぅっ!と手のひらで顔を覆った。

沢田は委員長がラブレターを読まないことに安堵していて・・・。
それはつまり・・・。

ま、まさか・・・!


この反応は2でも3でもなく、まさかの4『ヒバリさんのことが気になってますっ!』(好感度MAX)なのか!?
大穴キターーーッ!!


「・・・沢田、委員長は並盛堂のいちご大福が最近お気に入りだ。」
「は、はぁ??」
「都合のいいことに、それが今ここにあるっ!もうすぐ委員長が帰ってくるから、これを差し入れしてくれっ!」
ずいっと紙袋を押し付けると、沢田はちょっとびっくりした顔をしながら受け取った。
「オ、オレが渡しちゃっていいんですか?」
「俺は用事が詰まっていて、もう行かないとダメなんだ。お前が嫌なら他の者に頼むから、遠慮なく断ってくれ。」
「い、嫌だなんて、そんなこと無いですっ。」
沢田は頬を高潮させて叫んだ。

・・・この反応、やっぱり大穴キターー!

「じゃ、頼んだぞ。応接室の前で待ってたらいいから。お前の分もあるから一緒に食べてくれ。ただし俺が渡したことは内緒にしておいてくれるか。」
「えっ、草壁さんからって言っちゃだめなんですか?」
「あぁ。適当に『もらい物なんですがヒバリさんと食べたいと思って』とでも言っておいてくれ」
じゃ、と俺は沢田を応接室の前に残したまま立ち去った。

数歩進んだところで、そうだ、と振り返った。
「沢田、よかったらたまにでいいんで、こういうことを手伝ってはくれんか?委員長と会う機会が増えても構わんのならだが・・・」
沢田は、俺がそういうと
「えぇっ!?そ、そんなオイシ・・・いや、是非お願いしますっ!」
何度も大きくこくこくと頷いていた。


くぅーっ!『委員長の初恋を実らせ隊!』が使命を全うする日も近いかもしれない!
俺は沈む夕日に向かって走りながら男泣きに泣いた。


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