People who kill



 しかも、肉体損壊及び肉体修理だ。最終的には直すのだから、いくら壊しても意味がない。
 まだ忙しい夜の病院を背中にしながら、満たされない欲望をひしひしと自分の内部に感じていた。今にも爆発しそうな欲求を抱えて電車に乗り込むと、昨夜見た女が吊革に体重を預けるようにして立っている。
また疲れ切った顔をして、視線は床に向いているが何も見てはいないだろう。もし何か見ているとしたら、真っ暗な自分の将来だろうか。
 勝手な想像をして、俺は想像の中で女を惨めな生き物にした。恋人も金もない、仕事も腰かけOL程度の仕事をしているが若い同僚になめられて、上司にはいらない道具扱いされて。
 ぞくぞくするような惨めさに俺は興奮した。鞄の中には、昨夜ウィスキーを飲みながら用意した『からかう』ための道具が入っている。
今夜、野良猫のように薄汚れたあの女を散々『からかって』やろう。
もはや、世間的な立場への心配など吹き飛ぶぐらい、欲望が高まっている。
 電車が止まり、足を引きずるようにして女が薄暗い駅のホームへ消えて行く。不自然にならないように、距離をあけて俺も降車した。
駅から出ると、暗い住宅街が広がっていた。灯りが点いていない家の方が多いのは、時間が遅いせいだろう。
歩いている女の姿が時折、街灯に照らされるが、まるで幽霊のように霞んでみえる。
 俺は距離に気をつけながら女の後ろを歩きだした。見れば見る程、みすぼらしい女だ。背は曲がり、足はひきずるようにして何とか歩いているような状態だし、髪は束ねているものの遠目から見ても艶がなく、硬そうなのが分かる。
 鞄の中に手を入れ、道具を確かめる。病院から盗んできたトリアゾラムにクロロホルム、手術用のメス、密かにネットで購入したアーミーナイフと肉切り包丁、血しぶき対策の撥水合羽……。これらを毎日、寝る前に磨き、うっとりと眺めながらいつも夢に落ちる。
いつか、自分の欲望を満たす『からかい』の日を願って。
 今夜、ついに夢が叶う。
俺はクロロホルムの瓶に手を伸ばした。
完全に油断していた俺は電柱によりかかっている男に、ぶつかる寸前に気がついて危うく声を上げるところだった。
だらしなくスーツを着崩した男が、ビールを片手に電柱に寄りかかって眼を閉じている。あまりにも女に集中していたので、まるで男に注意を払っていなかった。
こんな場所で泥酔している男に腹がたち、女の代わりにしてやろうかと考えたが、あまりにも酒臭いのでやめた。
それに眠っているのなら姿を見られていないだろうから、好都合だ。
女を『からかった』後も、医師としての立場を放棄するつもりはないので、犯罪が露見するのは何としても避けたい。
もし、今回の『からかい』が成功して警察に犯人が自分だと発覚しなかったら、俺はまた次のターゲットを探して同じことを繰り返そうと決めていた。



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