People who kill



 たいした理由はなかった。
強いて言うなら、子どものころから残酷な映像や漫画が好きだった。
小学五年生の時に、近所の空き地で野良猫を見つけて、こっそり隠し持っていたカッターで尻尾をちょん切ってやった。悲鳴をあげて逃げ出した猫を見て笑った。それ以来、定期的に血が見たくなり、悲鳴が聞きたくなり、夜な夜な近所を徘徊しては動物たちを『からかって』やった。
 だが、子ども心に大人に言えば叱られて同年代の友だちは子どもだから俺が感じている悦びを理解しないだろうと分かっていたため、動物へ対する『からかい』は自分ひとりの楽しみだった。
 中・高と動物への『からかい』を楽しんでいたが、大学の医学部へ進学してからはピタリとおさまった。
周囲を気にしなくても、動物達の血を見る事が出来るようになったからだ。悲鳴こそ聞けないものの、とりあえず自分の手で肉を裂く作業が出来るのなら俺は満足できた。
 動物への『からかい』は、子ども時代の他愛のない悪戯だったと中年になった今では、しみじみと懐かしく思い出す。
今、俺は医師として総合病院に勤務している。幸いなことに血を見て、肉を裂ける仕事に就けたので非常に満足して日々を過ごしていた。
特に幸福を覚えるのは交通事故で人体破損が激しい患者が、夜間に運ばれてくる瞬間だ。
白い骨が肉を突き破って血が迸り、患者の悲鳴が冷え冷えとした病院内に響き渡る様子は俺に最高の快感を与えてくれる。
顔が潰れているのもいい。もうどこに目鼻が分からない状態でも生きているのを見ると、ゾクゾクするほど興奮するのだ。
誰も俺の趣味に気付いていないのか、どんなに凄まじい状態の患者を見ても取り乱さない俺を胆っ玉がすわっている奴だと勘違いしたらしく、医局でお前の豪胆ぶりは評判だぞと、先輩医師に言われた。
笑い話にしか感じられてなくて、俺は愛想笑いでごまかした。
 しかし、最近は物足りなさを感じ始めていた。
確かに血を見るのも、肉を裂くのも合法的にできる。それは楽しいことだ。
だが患者は叫ばない。彼らは眠りの中で、じわり、じわりと肉体を損壊されているが、目覚めたときには肉体は以前よりも良い状態になっているのだ。
壊されたのではない、修理されている。彼らは自分からどんなに血が流れ、肉を晒したのかを知らない。
 俺は知らずにため息をつく。
電車の中は、終電ということもあって疲れ切った人々で埋め尽くされている。
 ふと、ひとりの女性に視線が止まった。
くたびれた鼠色のスーツに黒いストッキング。一本に束ねた長い髪は艶を失っている。何処かで見覚えがあると思い、気付いて俺はふと笑いをこぼしそうになった。
前歯がせり出している顔のせいもあるだろうが、全体的に疲れ切り艶が無くなった姿は、自分が『からかって』きた野良猫たちに似ているのだ。



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